トランプさんと安倍さん、炎上まで仲良しこよし

 数日前からメキシコで避寒しております。こちらはお昼は半袖で、アイスクリーム屋も繁盛しております。

 で、当然、皆様は思われることでしょう。
 トランプ問題で、メキシコはすごいことになっているのではないか、と。

 いや、実際、トランプ当選直後は、私のfacebookのタイムラインは阿鼻叫喚状態でした。

 しかし、就任数週間後のメキシコでは、私の友人たちは思いの外、平然としていたのです。

「いやだって、我々が騒ぐ以上に、アメリカ自体が阿鼻叫喚じゃん」
「CNNが、毎日、もう面白くて。こんなにCNNにハマったの初めて」

 CNNが連日、トランプ新大統領にまつわるアメリカ国民のあれこれを報道してくれるからのようです。

 まあ、実際に、トランプ新大統領が、本当に不法移民を全部メキシコに送り返したりしたら、アメリカの製造業や農業もダウンしますから。やれるもんならやってみい、一層、アメリカがパニックに陥って、トランプが追い詰められるだけ、という感じみたいです。

 ちなみに、「焼肉食べ放題、ビーフとチキンはメキシコ、豚はトランプ」という広告を出している焼肉屋もあるとか。

 一方で、アメリカでは、トランプ・サンドウィッチというのが流行っているとのことです。
 どうも発祥はニューヨークらしく、正式には 「白パンにどっさりボロニア・ソーセージ(Baloney=「たわごと」の意味もある)とアメリカン・チーズをはさみ、ロシアのドレッシングと小さなピクルス(pickle=「困った」の意味もある)」を、メキシコ人もしくはイスラム教徒がサーブする、というものだそうです。

 まあ、世界各国首脳のトランプ大統領への冷淡さや、アメリカ本国での抗議やトランプバッシングの状態を見ていると、メキシコ人が「ざまあ」感なの、ちょっとわかります。トランプはこのまま自滅する、そういう感触を皆さん持っておられるようです。

 とはいえ、そのトランプ大統領と世界一仲良しなのを絶賛大アピールしておられた、われらが安倍首相の方も、大阪の小学校絡みで炎上しておられるようです。

 キリスト教系学校も仏教系学校も、それどころか創価大学もPL学園もあるのですから、神道系の学校がある事自体は、別に悪いことでもなんでもないと思いますし、実際に、皇學館大学‎とか國學院大學‎もあるわけです。
 また、いわゆる思想系ということでも、日本に思想の自由はあるわけですから、玄洋社ゆかりの国士舘大学だって存在しています。
 そういう意味では、神道系の幼稚園や小学校だって、それが存在してはいけないわけではありません。

 しかし、ヘイトや人種差別を公然と行うというのは、明らかにそういうこととは違うでしょう。そもそも、正統派キリスト教が、統一教会をキリスト教とみなさないように、ヘイトと差別丸出しのネトウヨくずれみたいなのを、神社本庁はどう考えておられるんでしょうかね。こんなだと、神道自体のイメージが損なわれると思うんですが。

 それで、龍池理事長は、「支那人・韓国人が嫌い」というのが「教育方針」であると主張され、保護者がそれを知らないのはおかしいとまで述べておられる、その教育方針について、名誉校長の安倍昭恵総理夫人が「こちらの教育方針は主人も素晴らしいと思っていて」と明快におっしゃっていると。

 であるなら、もちろん、安倍首相は、嫌がっておられたはずはないでしょうね。(であるなら、奥さんが名誉校長に就任するのを許すわけないですから)

 まあ、そういう学校法人に対して、国有地がありえない価格で払い下げられたのです。
 それも、9億5600万円の土地が1億3400万円になり、さらに実質的に支払ったのが200万円ちょっと、というのですから、ものすごい錬金術です。
「知らなかった」「木っ端役人が忖度して勝手にやった」では済まない話ではあると思います。

 Buzzfeed Japan:なぜ、国有地は「ただ同然」になったのか 首相夫人が名誉校長の神道小学校、疑惑の経緯は

 もうすでに、ニューヨーク・タイムズ、イギリスのガーディアンやフランスのフィガロロイター通信などでも報道されているようですね。
首相夫妻と密接な関係にある幼稚園」と、どこも報道しています。

 というところで、まさかの産経新聞が大スクープです。(笑)
 
 これ、こっちの解説のほうがわかりやすいですね。
 http://buzzap.jp/news/20170225-abe-osaka/

 こうまでの状況である以上、(つまり総理の名前や、夫人が名誉校長であることが、承諾なしに、交渉に使われたのであれば)、総理自身が指示して、この件についての徹底的な調査をするべきではないでしょうか。

トランプにババをひかされるのは誰か?

 寒い日が続くと、どうもいけません。
 私は寒さに弱いうえ、どうもキューバを恋しく思うことがあっても、キューバのことについて書こうという気がいまいち、パワーダウンするのですね。もちろん、新しいガジェットに夢中になっていたとか、MacBookProを買い替えたので、そっちのセットアップに時間を取られていたとかいうのもありますが。

 そうそう。iPhone6Sの電池の減りが異常に早いと思っていたら、いつのまにかAppleからリコールが出ていました。Apple Storeで買っているんだから、こういうの、メールで教えてくれたらいいのに。
 調べてみたら、ばっちり対象機種でしたので、Apple Storeでバッテリー交換もしていただきました。

 同じく電池の消耗が早いと嘆いておられたギタリストの方も適合機種だったようですので、お心当たりの方は、お調べになるのが良いかと思います。
 https://www.apple.com/jp/support/iphone6s-unexpectedshutdown/

 さて。世間はトランプ新大統領のことで大騒ぎです。
 もちろん、就任早々、いろいろやらかしてくれているからなんですが。

 しかし、ある意味、私はほっとしてもいます。ある意味、この人物のヤバさが早い段階でわかりやすく開示されちゃったからです。

 トランプ氏については、「選挙のときこそポピュリズムに訴えて票を集めるために、暴言を連発していたが、彼はビジネスマンだから、実際に大統領に就任したら、実利的な政策を取るだろう」といった楽観的な予測をされていた方や、「ヒラリー=既得権益・ネオコンと結びついている=敵、敵の敵だからトランプ味方」という安易な二段論法でトランプ氏を歓迎していたおめでたい方々もいらっしゃったようですが、前者については、すでに、予測はあっさり外れてしまったのが、誰の目にも明らかです。後者の方々に関しましては、「ウ○コ味のカレー」を拒否して、「カレー味のウ○コ」をありがたがっているという事実に早く気づいていただきたいと思っています。(お食事中の皆様、失礼いたしました)

 トランプ氏が本質的に差別主義者であり、彼の言う「アメリカ・ファースト」のアメリカ人とは「いわゆる白人」でしかないことは、割と早い段階から明らかだったので、そういう意味では、日本人である私達は、もっと早くに気づいていて当然なのですが、いかんせん、日本には「名誉白人」根性の方が多数いらっしゃいます。
 トランプ氏がレイシストで、メキシコ人や黒人やイスラム教徒を露骨に差別しようとも、「日本人」は、ちゃーんと白人扱いされるだろうと思っていらっしゃる方々ですね。
 そういった方々には、なかなか鏡に明確に写っているものも、見えてこないのではないかと思うと心配でなりません。

 いずれにしても、自動車会社が多少の工場を米国内に作ったところで、デトロイトが1950年代みたいなことになるわけがないので、米国がトランプ氏は今後、ロシアとは喧嘩せず(弱みを握られているという、信憑性のある報道もありますね) 、中国やメキシコやイスラム諸国を仮想敵にしていくことになるでしょう。
 ただ、中国に関しては、やりすぎて本気で怒らせ、中国の保有している米国債を大量放出されたら、米国経済がとんでもないことになるだけでしょうし、メキシコにしても(メキシコ人はもともと反米感情が強いので)、やりすぎると、メキシコが中国に大接近するだけでしょう。

 そういう状況の中、そして、トランプ氏が今後、露骨な円高ドル安政策を進めていくであろう中、もはや黒田バズーカ砲の弾も尽きかけた日本はどういう綱を渡っていくかというところです。支持率が激減して、仮想敵国をなんとしてでも作る必要ができ、かといって中国とメキシコをあんまりいじめるとやばいかも、ということに気づいたトランプ氏が、本気で矛先を日本に向けてきたら、どこまで言うことを聞かなきゃいけなくなるかわかったものじゃありません。

 もっとも、安倍首相は「これで、日本の独自防衛力を高めるという名目で自衛隊を増強し、念願の核兵器も持てるようになるかもしれない。案外、これってラッキーかも」というお考えかもしれませんが、今後、米国と中国が本格的に対立してきた場合、日本が巻き込まれて、ババを引かされることにならないことを切に祈るばかりです。

 それにしても、昨年2016年にオックスフォード英語辞典が選んだワード・オブ・ザ・イヤーが「ポスト・トゥルース」だったわけですが、そのあと、今年になってから出てきた「オルタナティブ・ファクト」という言葉の破壊力、半端ないですね。どんなデマを流して、それを指摘されても、これでオーケーってわけです。
 その点、そこまで鉄面皮ではない日本の検察は、デマ報告書を「勘違い」一辺倒でしのぎましたが、恥を知っているだけ、実に可愛く見えるというものです。

 もう今年のワード・オブ・ザ・イヤーは、これに決まりじゃないでしょうか。
 そして、これこそが、トランプ政権を象徴する言葉になることでしょう。トランプに投票した方たちは、これから「アメリカ・ファースト」の「オルタナティブ・ファクト」ワールドを見せつけられることになるのです。

言い訳とライブのお知らせ

キューバねた、これからも続けますが、ここのところちょっと忙しくて更新が遅れております。お問い合わせの皆様、もうちょっとだけお待ちください。

とりあえず、ライブが二つ続きますので、お知らせまで

1月22日(日) 横浜 ピロカフェ
(横浜市南区白妙町3-41)
お問い合わせ・ご予約/046-801-0403

開場 18:30 開演19:00 
前売予約:3,000円 / 当日:3500円

アクセス/京急線黄金町駅より徒歩8分、横浜市営地下鉄ブルーライン阪東橋駅より徒歩5分
横浜のおしゃれなカフェで、大好評につき、再度のライブが決まりました!!
ギター福島久雄さん。アンプラグドでやります!
ネット予約

◆1月26日(木) 六本木 ノチェーロ
(東京都港区六本木6-7-9 川本ビルB1)
お問い合わせ/03-3401-6801

1st 19:30 2nd 20:45 3rd 22:00(入れ替えなし) 
Charge:2,600円(おつまみ一品付)

アクセス/日比谷線・大江戸線六本木駅より徒歩2分

六本木駅至近の最高の立地の音響の良いステージで、東京では今年最初のライブ。美しい歌曲の数々をじっくりお聴き頂きます! 今月は木曜日ですので、お間違いなく!!
ギター福島久雄さん。
ネット予約

キューバでの想い出(その2)

 80年代。
 キューバの田舎は、なかなか楽しいところだった。なにより、首都では不足気味の野菜が豊富だった。
 ハバナから始まって、マタンサス、サンタ・エスピリトゥ、トリニダード、カマグエイ、オルギン、バヤモ、サンティアゴ。すべて、乗り合いバスの旅だ。
 どこでも、キューバの人たちは、最初のうちは、「バス停にいる外国人」をうさんくさげに見ていたが、すぐに誰かが話しかけてきて、うちとけ、いろいろ教えてくれた。

 古都トリニダードに着いて、安ホテルに向かうと、満室だと断られた。そこのフロントで教えてもらった別のホテルに行ったら、見るからに外国人向けホテルで高そうだ。これは、まずいよ。
trinidad1.jpg
 しょうがないので、もう一回安ホテルで交渉しようと道を戻っていくと、教会前の公園から、なんとも美しい歌声が流れてくる。
 わお。

 公園に入っていくと、ベンチで美少年がギターを弾きながら歌っていた。
 思わず前で聞き惚れていると、少年は「あなた、どこから来たの?」と問う。
「日本から。もっと歌ってくれる?」
「いいけど.......今夜はこの街に泊まるの?」
「.....それが、ホテルがいっぱいでね、いま泊まれるところを捜してるの」
「ああ、じゃあちょうどいい」
 意外なことを少年は言った。
「うちに泊まればいい。今晩『トローバの夜』があるんだ」
「なにそれ?」
「この街のトロバドールが集まって、みんなで歌を歌う集まりだよ」

 トロバドールというのは、19世紀末ぐらいからキューバで起こった叙情的な歌を歌う人たちだ。中世ヨーロッパの吟遊詩人(トロバトゥール)のキューバ版である。
 それって、ものすごい幸運じゃないか!

 そこでさっそく誘いに乗ることにして、バッグを担いで、少年の後ろについていった。

 と。

「お嬢さん、外国の人だね。どこに行くの?」と、すれ違ったおじさんが、見とがめたように声をかけてきた。
「『トローバの夜』に招待したんだ」と、少年。
「トロバドールの集会があるんですって」と、私。

 おじさんは、なんともいえない表情になった。
「お嬢さん、お泊まりのホテルはどこですか?」
「それが、ホテルがいっぱいで泊まるところがなくて」と、私。
「ぼくんちに泊まるんだ。どうせ『トローバの夜』だし」と、少年。

 おじさんは、さらになんともいえない顔をして眼鏡を拭くと、私にこう言った。
「あのですね。先に言っておきますが、私はおすすめしませんからね」
「失礼ですけど、あなたはどなた?」
「革命防衛委員会のものです」

 出たっ! 革命防衛委員会だってよ! やっぱ社会主義!

「つまり、この人の家に泊まるのは禁止っていうことですか」
 おじさんはまた困った顔をした。
「禁止、ではありません。あなたにはどこにでも泊まることができます。ただ、あまりおすすめできないと...」
「なぜですか?」
「だって、今夜は街中のトロバドールが集まるんですよ」
「それのどこがいけないんですか?」
「いや、いけなくはないが....」

と、少年が私の手を引っぱった。「さ、放っといて。さ、行こう」

 おじさんを残して、私たちは歩いていく。
「あのさ、外国人の私を家に泊めたりして、迷惑はかからないの?」
「いや、べつに。きっとみんな喜ぶよ」

 荷物を置いて一休みすると、もう日が暮れかけていた。
 すると、三々五々、人が集まってくる。白い人、黒い人。

「あたしは、ラ・プロフンダ」
 見るからにキャラの濃ゆそうなおばさんが、ドスの利いた声で自己紹介した。「この街イチの、トローバの歌い手さ」
 プロフンダというのは、深淵という意味だ。深遠なる女性。すごい渾名だ。

trinidad3.jpg 彼女は、ギターを取って、弾きはじめた。スペインの船にまつわる物語の歌。たぶん古い歌だ。すぐに少年が3度並行でハーモニーをつけた。美しい。なんて贅沢。
 続いて、別の、愛の歌。
 それから、みなが順番に弾き歌いの宴会が始まった。

 ........そして、朝の4時ごろ。
 私は外気と夜明けの光を浴びに、よろよろと外に出た。

「おお、大丈夫かね」
 なんとそこにいたのは、革命防衛委員会のおじさんである。

「え、ずっと外にいたんですか?」
「まさか。ただ、朝早く目が覚めたんで、気になってきてみたんだ........眠れなかっただろ」
「...........はい」
「気分は大丈夫か? 水飲む?」
「...........大丈夫です」

 おじさんは私を自分の家に案内した。そこから2ブロックほどのところだった。
 奥さんがにこにこしながら水を出してくれて、「ベッドがあるから、眠りたかったら、寝てもいいのよ」と言う。
 お言葉に甘えて、少し眠らせてもらい、目が覚めたら8時ぐらいだった。
 朝ご飯ができていた。

「外国の人が泊まるところがなくて、トロバドールの家に泊まるなんて言うから、私はあの人に怒ったの。うちに連れてくれば良かったのにって」
「だって、お前に無断で決めるわけにはいかないし、それにこの人が」
「いえいえ、私が自分で泊まりたいって言ったんです」

 その時点で、私は、なぜ、おじさんが「禁止ではないが、おすすめできない」と言ったのか理由がわかっていた。

 連中は、呑む。

 一曲弾き歌うとギターを回し、次の人が一曲歌う。これが延々と続く。そして、その間、延々とラム酒がふるまわれる。
 ラ・プロフンダの歌はすばらしく味があった。他の人たちの歌もそれぞれ良かった。さらに、ギターの弾き語りだけではなくて、パーカッショニストの人もいて、トゥンバドーラ(コンガ)の妙技を、曲芸もどきの技まで披露してくれ、私にリズムの取り方やクラベスの叩き方を指南してくれた。(だいぶあとでわかったが、この人は「伝説の名手」として有名な人だった)
 それはすばらしい体験だった。言葉にできないほどの贅沢だ。

 しかし、連中は呑む。trinidad2.jpg

 明け方、歌い疲れ、呑み疲れて、皆がひっくり返るまで。
 それが『トローバの夜』の正体だった。

「あいつら、ものすごい呑むやろ」
「すごかったっす」
「君、よく倒れなかったな。酒強いんやね」
「いや、かなりセーブしてごまかしてましたから」

 途中で、このままだと急性アルコール中毒になると思ったので、呑んでるふりしてごまかしてたのだ。
 つまり、おじさんは、朝の4時ぐらいに皆が酔いつぶれるだろうと踏んで、様子を見に来たってわけだ。

「トリニダードは、アル中ばっかりというわけではないから」
「いや、それはわかってます」

 おいしい朝ご飯のあと、おじさんはやはり近所に住んでいるという、街の地元史研究家のところに連れていってくれた。そこで美味しいコーヒーとやたらに甘いお菓子をいただきながら、トリニダードの街の歴史についての講義を受けた。革命防衛委員会のおじさんとしては、トリニダードがアル中だらけだというイメージを断固として外国人に持ってもらいたくなかったようだった。

 でも、おじさんごめん。
 いまでも私はトリニダードを想うとき、やっぱり思い出すのは、あの教会とトローバと強烈なラムなんだよね。
 みんな、どんだけタフなの〜!
 
※:この時代、外国人はどこでも民泊できたが、現在、法律が改正され、無認可ホテルの脱税を防ぐため、キューバ人の家に泊まるには、査証が必要になっている(一般観光客は、ビザ無し+ツーリストカードのみで入国できる)。
 一方で、ホテルや民宿の数は劇的に増えたため、泊まれないことはほぼなくなっている。

※その後も、私はあちこちで「トロバドールの宴会」に行く機会があったが、ほぼ例外なく、酒がつきものだった。

キューバでの想い出(その1)

 私がキューバに最初に行ったのは1983年のことだった。それはメキシコ人学生向けの激安パックツアーで、往復の航空チケットと安ホテルだけ、というパッケージだった。
 その頃の私は、キューバって北朝鮮みたいなところだと信じていたので、話の種に行ってみよう、これが最初で最後だし、と思ったのだ。
 到着したハバナの空港はしょぼくて、葉巻の香りが漂っていた。
 空港からホテルまでバスで着くと、国営旅行社クーバツールのお姉ちゃんが、
「帰国便に乗るための送迎バスの時間だけは厳守してくださいね。乗り遅れたら自腹で正規運賃払ってもらうことになりますよ。ではあとはご自由に」
 ツアーの中にいたメキシコ人の男の子が、「あのー、このホテル以外のところに泊まってもいいですか?」
 私は、その質問に、こいつ馬鹿じゃないのかと思った。『社会主義国』だよ、ここは。
 しかし旅行者のお姉ちゃんは、にっこり笑ってこういった。
「キューバ人の彼女できるかもしれないじゃない。野暮なこと言わないわよ。あんたの守らなきゃいけないルールは、帰りの送迎バスの時間厳守だけ」

 その日からハバナの街を散策しまくった。街で知り合いになった人の家にも遊びに行った。
 それでも疑いを捨てきれなかった。私が見ているのは一面ではないのか。
 知り合いになったキューバ人にそう言ったら、あっさりと「だったら、田舎に行ってみればいい」
「えっ、行けるの?」
 相手は呆れたように答えた。「そりゃバスか列車に乗ったらね」

 ただ、そのパック旅は地方に行くには短すぎた。数年後、私はキューバに戻った。
 その前に、ダイヤモンド社の『地球の歩き方』編集部に売り込んだ。私はすでにメキシコ編の一部を執筆しているライターだったからだ。しかし、答えはノーだった。
「社会主義国で、自由旅行なんてできるわけないでしょ。できないとわかっているものに取材費は出せません」
(当時の「地球の歩き方」は今と違って、個人自由旅行者向けの本だったのだ)

 そこで、私は、「自由旅行をしてみせたら、キューバ編を刊行する」という約束を取りつけてキューバに旅立つことにした。そして、まずメキシコで情報を集め、ビザを取った。
 そんなある日、メキシコのホテルのロビーで、まったく偶然に、ちょうどキューバからメキシコに公演に来ていた音楽家のパブロ・ミラネスにばったり会った。
 見たで、その顔。ポスターで。
 げ。パブロ・ミラネスやん。本物の。

 驚いていたら、当のパブロ・ミラネスは私を見て、隣にいた友人に言った。
「中国人の子が、オレ見てびびってるよ。きっと、はじめてナマで黒人見たんだぜ」

「私は中国人じゃなくて、びびってるんでもありません。パブロ・ミラネスさん」
 スペイン語でそう返すと、パブロは真っ赤になって(黒人だけど)、謝罪した。お詫びにとコーラをおごってくれた。(子供扱いやな)
 その時に、彼に尋ねた。
「キューバにちょっと長期で行きたいと思ってるんですけど、なんか問題ありますかね」
「問題って?」
「危険とか犯罪とか」
 すると、パブロ・ミラネスはにたっと笑って、こう言った。
「キューバはすごく危険だよ。行ったらキミはぜったい心を奪われるね」

 それで、私はキューバに行った。ハバナでは外国人向けの高いホテルは最初の一泊だけして、あとはキャンセル。キューバ人向けの激安ホテルに引っ越した。そのホテルに外国人が泊まったことは長らくなかったらしく、ホテルのスタッフは大喜びだった。ついでに、他の宿泊客(地方から出張で来ていたキューバ人)ともいろいろ知り合い、地方旅行の情報をせしめることができたのは僥倖だった。

 日本の映画関係者の人に頼まれた資料のために、地方に出る前に、国営映画公社ICAICのオフィスを訪ねた。ちょうど、黒澤明映画週間の準備中だった。たまたま、そこにいた背の高い兄ちゃんに訊かれた。
「お父さんは(日本)大使館の人?」
「違います」
「キューバに親戚とかいるの?」
「いません」
「なんかの団体?」
「ひとりです」
「ひとりで? なにしにキューバに来たの?」
「来たらいけませんか」
 その人は困った顔で言った。
「いやだって、日本は米国べったりだろ。だから、キューバのことも、散々ひどいことを言われてるんじゃないかと思って」
「それはまあ、そのとおりですね」
「それなのに、キューバに来るって....怖いとか思わなかったの」
「自分の目と足で確認しないことは、たやすくは信じないたちなんです」
「君、変わってるな」
「よく言われますね」
 すると、その兄ちゃんは、ポケットからメモ用紙を出して、自分の名前と電話番号をメモして、こう言った。
「じゃあ、こうしよう。僕が君の最初のキューバ人の友達になるから、君がぼくの最初の日本人の友達になってくれないかな」
「あなたと友達になって、私に何かメリットあります?」
「......困ったことがあったら、できるだけのことはするよ。それが友達ってことだと思うから」
 その『私のキューバ人の最初の友達』とは、いろいろ紆余曲折はあったが、いまでも友情が続いている。

 その友達の最初のアドバイスはこうだった。ヒッチハイクする時は、アメ車よりラダ(ソ連製の車)かモスコビッチ(ソ連製の車)を狙え。(※1986年時の話です)
「ラダとかモスコビッチに乗っているのって政府関係者が多いので、犯罪に巻き込まれる可能性が圧倒的に低いと思う」
「キューバって犯罪多いんですか」
「いや、あんまり聞かないけど、ただ、どんな国でも犯罪はあるよ。用心はするに越したことないからね」

 そして、地方を2か月弱歩いた。どこでも日本人は珍しかったので(※1980年代のことね)、よく「可哀想なベトナム人の留学生」と間違われて、道ゆくおばあさんとかがお菓子とかパンをめぐんでくれた。
 地方での旅も、キューバ人向けの激安ホテルに泊まり、宿のないところでは、バスの中で知り合ったキューバ人のご家庭に泊めてもらった。

 そういう旅が可能だったのが、日本では「とんでもなく危険な国」「そもそも自由旅行なんてできるわけがない」と思われていたその頃のキューバだった。
 この貧乏旅行でとったメモは、その後、ダイヤモンド社から出た日本で最初のキューバの旅行ガイドブック「地球の歩き方 メキシコ・キューバ・中米編」という形で日の目を見る。


『生きていくために』パブロ・ミラネス
プロフィール

PANDORA

Author:PANDORA
ラテンアメリカと日本を拠点に活動する音楽家・作家 八木啓代のBlog
公式サイト http://nobuyoyagi.com

★CD情報
新作CD”Lagrimas”試聴やご購入はこちらから

★新刊情報
刑事司法への問い (シリーズ 刑事司法を考える 第0巻) (岩波書店)
日本の刑事司法の何が問題か、どのような改革が求められているか。刑事法研究者、実務法曹の他、八木も執筆しております。
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★ライブ情報
5月11日(木) 六本木・Nochero
Vo. 八木啓代 G. 福島久雄

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