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片山さつき氏の絶望的な勘違い

 NHKの番組に登場した女子高生がバッシングされ、しかも、国会議員の片山さつき氏までが、問題視するコメントをしたという件が話題になっている。

 ネトウヨと呼ばれる人たちの「弱者バッシング」については、いまさら感があるし、それに乗る片山氏も片山氏と言ってしまえばそれまでだが、ただ、片山氏が「女子大生が『貧困ではない』と感じてしまった」ことには、「貧困の質の変化」に気づけていない感性の鈍さが、その根底にあるように思う。

 片山さつき氏は、1959年、昭和34年の生まれだ。
 そして、彼女が「ものごころつく年代」である昭和40年代あたりまでの「貧困」には、とにかく「わかりやすさ」があった。

 公立の学校なら、クラスに何人かは、青洟をたらし、かなり着古したお下がりを着ている子がいたし、破れた服を繕って着ているのも当たり前だった。
 電化製品もしかり。
 1960年代は、炊飯器・白黒テレビ・冷蔵庫が「三種の神器」と呼ばれ、「中流家庭が努力すれば手に入れられるもの」だった時代だ。70年代以後にはそれが、カラーテレビ(もちろんブラウン管)、クーラー、自動車になった。
 風呂のない家も多かったし、瞬間湯沸かし器が普及し始めたのも、この時代だ。
 改めて言う。これらは、「それが手に入れられれば、貧困から脱出したと思われるもの」ではなく、「中流家庭が努力すれば手に入る」ものだったのだ。

 つまり、この時代の貧困とは、「努力しても、なかなかテレビなどの電化製品を購入することができない」「新しい服や日用品を買えない」人たちだった。昭和40年代までは、鍋や釜の修理をする「鋳掛屋」が街中にいたのである。

 ついでに言えば、1995年の阪神淡路大震災の頃まで、携帯電話も、限られた高所得者だけが持つ、大変な「贅沢品」だった。若者でも一人一台持っている時代などは、想像もできなかったものだ。

 片山さつき氏は、彼女自身は恵まれた家庭環境にあったとはいえ、そういう時代に育った人である。
 貧困と言えば、痩せ細り、破れた服を繕って着て、使い倒した日用品をさらに修理して使い、家に家電製品などほとんどない、というのが、昭和40年代の貧困だった。

 NHKの朝ドラの「とと姉ちゃん」のモデルとなった「暮らしの手帖」が圧倒的な支持を受けたのは、そういう時代背景がある。日本の中流の人たちがようやく、便利な家電製品を手に入れられるようになり、しかし、まだそれは「高価」で「贅沢」であった一方で、当時まだ先進国ではなかった日本製の製品には「粗悪品」も多かったため、「暮らしの手帖」の厳しい商品テストは、中流家庭の人たちが、「思い切った買い物」をするための必需品でもあったのだ。

 しかし、21世紀の貧困はそうではない。

 技術進歩とコストダウンに加えて、1ドルが360円だった頃と比べれば3倍以上になっている円高のために、輸入品は圧倒的に安くなり、価格破壊のために、衣料品や日用品や電化製品は相対的に「安いもの」となった。
 日用品は100円ショップでかなりのものが揃うし、衣料品も激安のファストファッションがどこでも手に入る。2000円もあれば、リサイクルショップでなら、小綺麗な格好が十分揃うだろう。
 電化製品ももはや、「中流の家庭が努力して、思い切って購入する」ものではない。もちろん、最新の機能を売りにした高額製品も存在しているが、シンプルなものでよければ、冷蔵庫も液晶カラーテレビも洗濯機も、驚くほど廉価に手に入る。2000円でオーブントースターやアイロンが買えるのが、「現在」という時代だ。
 そして、仕事に携帯はほぼ必需品となった。派遣やバイトで生計を立てる貧しい若者ほど、ケータイなしでは仕事をすることができない。現在では「ケータイ」を持たなくてもいいのは、むしろ、それが許される「特権」である。

 2008年に年越し派遣村が日比谷公園にできたとき、そこに集まったたくさんの「ホームレス」の若者たちの圧倒的多数は、とても身ぎれいで、一見、貧困者には見えないような人たちが多かったことも記憶に新しい。

 さらに言えば、もはや「発展途上国」と言われるような地域ですら、「痩せ細り、ボロをまとった貧困」は、一部の難民キャンプを除いては、過去のものになりつつある。いまや発展途上国と呼ばれる国々での現代の貧困者の姿は、高カロリー食のため肥満していることの方が多く、そして、典型的な貧困家庭には、無料の娯楽であるテレビが必ずと言っていいほど存在し、そして、自身が職を得たり、外国に出稼ぎに行った家族と連絡を取るための携帯(ほぼスマートフォン)も必須のものとなっている。

 現在の貧困は「可視化されにくい」。

 だから、スマホを持ち、小綺麗な格好をし、家に帰れば、テレビもアイロンもトースターも電子レンジも湯沸かし器もあったとしても、それは「貧困ではない」ことにはならない。小綺麗な服や日用品や電化製品の価格が劇的に下がっているからだ。その代わりに、あの時代よりはるかに手が届きにくくなっているのが、「安定した就職」であり、そのためにより重要な条件となりつつある「進学」だろう。

 昭和40年代までは、中卒や高卒でも正社員としての就職はいくらでもあったし、一度、就職すれば、現在よりはるかに生活は安定した。あの時代には「派遣切り」などはなかったからだ。そもそも、一般労働の「派遣」が許されていなかった。そして、労働者は、労働基準法や組合によって、(皮肉にも、現在より)守られていた。

 まだ豊かではない時代に育ち、日本の発展の中で、バブルという豊かさを極めた片山さつき氏の世代にとっての「貧困」や「安定」の感覚と、現在のそれとは大きな溝がある。
 企業の寿命も、かつては50年と言われたが、今では25年以下になっている、そんな時代だ。IT化という第三の産業革命の影響で、今後、多くの職種が消えていくであろうと予言され、さらに、日本という国の斜陽化に加えて、少子高齢化による年金や福祉も削減されるかもしれない可能性の中で、若者に「安定した未来」が描きにくくなっているのが、今の日本の最大の問題だ。

 問題は、それがバブル世代の「ふつうのおばさん」の発言であれば、「今の時代がわかっていない、勘違い発言」であっても、片山さつき氏は政治家であるということだ。
 現状を認識できていない政治家、ほど恐ろしいものがあるだろうか。

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的確分析に感服

相変わらず鋭い分析。政治家には片山氏のような高級お馬鹿さんが多いですね。
今朝の日曜討論に出ていた「加藤勝信」氏もお馬鹿の代表のようなお方。
加藤氏が働き方改革を主導することなど到底できるとは思えない、

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No title

貧困女子高生の勘違い??
今回の問題はパソコンは買えないけど、ライブやディナーには行ってるという点ではないのですか?

あなたの絶望的な勘違いについて

あなたの貧困に対する考え方は否定しません。
ただ、今回のNHK貧困女子高生問題は、あなたが指摘するような、安価な物を持っているのではないのです。
2万円もするようなペンのセットが果たして安価なのか?
女子高生が何度も千円以上もするようなランチを食べているが、女子高生にとってそれは果たして安価なのか?
それが安価というのなら、あなたこそ本当の貧困を知らないのでしょう。あなたこそ恵まれた環境で育ってきたんでしょう。
上記のような高価なもの(一般常識的な金銭感覚的で表現します)を所持し、貧困対策の会合に出て意見を述べ、国に対して対策を要望するということ自体、本当の貧困者に対して失礼極まりない。それは、一般市民が貧困者に対するイメージを低下させ、本当に支援が必要な貧困者に対しての対策も、反対意見を増やしてしまうから。
 彼女が本当に貧困であったなら、何も問題にはならなかったし、一般市民も報道に接して、何か考えなければならないという機会を作ることも出来たはず。しかし彼女は恵まれてはいないかもしれないが、貧困者ではない。
 片山氏はそういう貧困ではないと疑われている件について、NHKはどういう考えを持っているのかを
調査しただけ。それは当然でしょ。だって、貧困者対策で予算を組む場合、そこには我々の税金が使われるんですから。適正に税金が使われるために国会議員が調査するのは当たり前。
あなたが言う、スマホを持ち、小綺麗な格好をし、家に帰れば、テレビもアイロンもトースターも電子レンジも湯沸かし器もあったとしても、それは「貧困ではない」ことにはならないというのは確かにその通り。しかし、2万円以上するようなペンのセット、千円以上するようなランチ、アニメのフィギア等は「本当の」貧困者では手が出ないんですよ。そこがあなたの絶望的な勘違いです。

片山さつきは給付型奨学金推進派

こんばんは。八木様のコラムは興味深く拝見しています。今回テーマでは嘆願をさせていただきます。

片山コメントの原文はご覧になりましたか?
片山さつき議員は貧困高校生を非難してはいません。あえていうならば、保護者に対して注文を付けているだけです。そして、片山議員は同日8月20日に
・ 当の高校生が経済弱者であるとネット右翼に説教
・ 自民党が進める給付型奨学金の対象者となるのかという心配
・ 現行の貸与型奨学金の金利引き下げ
という内容のツイートをしています。
詳しくはこちらを参照ください。
http://www.dlareme.org/blog/?p=5261
せめてこちらの片山議員のコメントを参照ください。
https://twitter.com/katayama_s/status/766998217493839872
https://twitter.com/katayama_s/status/767005786744565760

中古PC云々というコメントは、法律にのっとった対応を保護者に求めているものです。保護者は子供に適切な情報環境を用意する責務があります(青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律 第六条)。適度な情報環境は生活保護受給者にも認められた生活者の権利です。
大手キャリアで契約したであろうiPhoneを保有しながらも、高校に進学した今でもキーボードしかないという現状です。クリエーター志望者として情報環境が偏っているのです。

あなたのような発信力のある方が勘違いして、自民党の中の格差縮小を進める大物議員を非難する。こういうことが続くから話がややこしくなって、貧困者に必要な法整備が遅れるのです。NPO法人キッズドアは間違いに気が付いて片山議員に謝罪をしました。

これは嘆願です。文章のプロであれば人を非難する前にせめて原文にあたってください。

[追記]

私も大学時代は数十万円の給付型奨学金を得ました。受け取ってしまった以上は、現状で給付型奨学金を推進できる大物議員を擁護せざるを得ません。
今回は片山議員の了解を得られたので、給付型奨学金の私案を片山議員に送付させていただきました。私案のひとつは国際人権規約の高等教育無償化です。格差縮小ではなく外交上の必要性を説得材料にすべきとしました。

片山議員の立場は、自己責任論が大好きな議員に囲まれた状態で議論を進めなければなりません。「親がアル中の子供の学費をなんで税金で!」みたいなオジサンを説得するのは大変でしょう。
極右と呼ばれる片山議員です。右翼か極右か判りませんが、右翼の反対する政策は今の日本では通せません。民進党が与党になっても、自民党が反対して(選挙によく行く)中高年を煽ればつぶせます。
さらに、司法ですらも少数者の利益ではなく多数者の民意に配慮した判決を出します。選択的夫婦別姓の最高裁判決などがそれに当たります。右翼が民意を喚起すれば最高裁判決ですらコントロールできるのです。
片山議員は票を稼ぐ大物議員です。右翼議員が自分の人気を背景に仲間たちに社内営業するしか格差縮小政策は実現しません。いまは、「憲法改正のための点数稼ぎ」という右翼も納得する大義があります。

「パンとサーカス」という非難があります。大いに結構。得票数第三位という鳥越俊太郎を応援しちゃった野党連合を見れば、どちらがマシなパンとサーカスかは一目瞭然です。

ネトウヨってなんだ?

簡単にネトウヨって言葉を使ってますけど、ネトウヨってなんですかね?
その言葉を誰がいつなんの目的で作ったのかも知らずに使っているのでしょうか?
あまりにも簡単なステレオタイプの批判でなんの価値もない文章を書く人だと思われないように
きちんといろいろ調べてから発信したほうがいいのではないでしょうか?

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No title

>朝日じゃないよさん

調べて書いてますが、何か?

そうそう、ネトウヨって、自分がネトウヨって指摘されると嫌がって、すぐに「保守」だとかって言いたがるんですよね。それもネトウヨの典型的な特徴なんですよ。

No title

>守谷知さま

片山議員の一連のツイートはもちろん原文を確認していますよ。
つまり、片山氏が、いわゆる「まとめサイト」をリツイートしたり、URL引用したりすることで、デマに基づく女子高生バッシングの内容を積極的に拡散し、さらに、そういった意見をまとめる形で、NHKに説明を求めるとしていることを問題視しているのです。

守谷さんの文章は、確かに片山氏のツイートではありますし、そこだけ読むと、彼女が非常に公平に発言していたかのように見えるように書かれていますが、実際には、彼女がどのツイートに対して反対の返信をし、どのツイートに賛同し、URL引用しているか、また、どういったツイートをRT拡散しているかを意図的にはずしておられますよね。

No title

>現状を認識できていない政治家
逆でしょ。自分たちで作り出してきた状況ですから、理解し認識して叫んでるんでしょう。それこそ女子高生を叩いている連中と呼応してるんじゃないですか?自分たちに都合の悪い番組を作りやがって、位の心境なんじゃないですかねェ、、?
今NHKに心境の変化でも起き始めてる兆しがあります。天木氏が指摘した解説委員5名による、核発電は最早不要論生番組など典型でしょう。
再任不可にされそうな籾井の反乱によるのか、職員からのモミイ➡政治経済界への反乱なのかは未だ分かりませんがね(笑)

同感です。

 的確な分析に感服です。
個人個人の物の対価に対する感覚は、生活環境や地域など、複合的要因によるところも大きいと思います。    こうした事象の反面で、安部政権の海外に対するばら蒔きを見るに付け、
憤りを感じざるをません。

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