NHKの反知性主義、ここまできたか?!

 数日前、たまたまつけたテレビで流れていたNHKの朝の放送「あさイチ」をなんとなく聞いていて、耳を疑った。
 
 ある子供から「なんで人は平等じゃないの?」と質問されて困ったというエピソードの紹介から、出演者たちが、次々に、「平等イコール幸せという考え方がちょっと違う」「自分が好きなことできればそれでいいと思っている」「誰でもが金持ちになりたいわけじゃないし」
 と、いかにも、「平等」が、良いものではないことであるかのような会話につながり、しかも、出演者が皆、それに同調し、そのまま、そういった意見を肯定するかのような形で、終わってしまったのだ。

 いや、ちょっと待てよ。
 それ、根本的に違うんだろ。

とツッコミを入れたのは、私だけではあるまい。

 そもそも、平等というのは、フランス革命の理念でもある。というか、ギリシアの民主主義の伝統を汲む、近代社会の根本をなす概念である。

 法の下の平等、男女平等といった言葉でわかるように、人種・性・障害・民族文化・出自といった、「本人にとって選択することができないような不当な理由によって、不当な差別や迫害を受けない権利」のことである。「人種・性・障害・民族文化・出自などの違いにかかわりなく、人間としての価値に違いはない」という思想のことである。

 間違っても、「Aさんは金持ちで、Bさんが金持ちでないのは、不平等」というような低レベルの概念ではない。「Aさんが金持ちであり、Bさんが金持ちでなかったとしても、Bさんが、金持ちでないことを理由に、同じ国民として、不当な扱いを受けることがない」権利のことである。

 言ってみれば、普通選挙権も、国民健康保険も、この「平等」の原則によるものである。
 逆に言えば、平等を否定するということは、人種差別や男女差別などを肯定するということだ。

 つまり、「平等イコール幸せ」もへったくれもなく、「誰でもが、人間としての最低限の幸せを追求する権利を保障する」ことが「平等」なのであり、「身分や性別などによらず、誰でもが、自分が好きなことができるべき権利」が「平等」なのである。
 言うまでもなく、「誰でもが金持ちになりたいわけではないから、平等はおかしい」というのは、根本的な誤りであって、「金持ちになりたいわけではない人でも、その生き方(職業選択の自由)を選ぶ権利を保障される」ことが「平等」である。

 しかし、実際には、人間は平等ではない。
 先進国の裕福な家庭に生まれた子供と、貧しい国で貧困家庭で生まれた子供では、明らかに機会は均等ではない。
 だからこそ、平等を目指すという理念によって、近代社会は、より良い社会を作ろうとしてきた。

 その中で、選挙による民主主義政府という概念が生まれ、人種や男女や平等を求める声が生まれ、教育の差別をなくし、法の下の平等という理念で司法が運営されるようになってきたのだ。

 完全でないから、よりよいものを目指すということが重要なのであって、だから、子供が、飴が全員行き渡らなかったという理由で、「なんで平等じゃないの」と訊ねたら、正しい答えは、「平等であるべきだけど、できなかったから、それは残念なことだ」と応えるべきなのである。

 言うまでもなく、「Aさんが美人だけど、Bさんが美人じゃないのは、不平等」というのは間違った用法である。それは「不平等」なのではなくて「不公平」にすぎない。
 ましてや、「個人の自由を尊重せずに画一化する」ことは「平等」の本来の理念ではない。

 そういった基本中の基本のことを、この番組で、いちおう哲学教授を名乗る人物が登場していながら、「それ、定義を勘違いしてますよ」と指摘もしないし、そういったレベルの低い誤解を放言させ、しかも肯定的に放映してしまうところに、救いのない気持ち悪さを感じたのは、私だけだろうか。

 反知性主義、ここまできたか、という感じである。

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憲法第一条と第十四条

日本国憲法第一条と、日本国憲法第十四条の間に横たわる「不平等」を、どう説明しますか?
あるいは、それは天皇と国民の違いがあるから、平等概念では説明できないと?

反知性主義の用法、間違えてますよ…

NHKは公共放送に値しない

植草一秀氏が時に応じてNHKの偏向ぶりを批判しています。
昨日(25日)も「もはや正気の沙汰と言えないNHKの暴走脱線」というタイトルでエントリーされました。http://uekusak.cocolog-nifty.com/blog/2015/10/post-4db7.html
NHKでは他に「ニュースウォッチ9」が世論誘導に貢献し、前キャスターの大越健介氏が政府の代弁者になって喋っていることがしばしばでした。

最近ではTPP交渉が大筋合意したことを受けてNHKのニュースでアナウンサーたちが、良心の呵責を感じることもなく、しゃーしゃーと政府見解どおりの台本を読んでいます。孫崎享氏はISD条項こそが一番の問題だと言ってますが、ISDのIの字も話題にしません。国民は、自分たちの生活に直接に悪影響を及ぼす可能性大のISD条項を知らないまま、TPPを理解したつもりになってしまいます。

本当にこのアナウンサーたち、ISD条項を知らないのでしょうか?戦時中のラジオのアナウンサーのように、大本営発表をそのまま垂れ流し国民を騙し悲惨のどん底に陥れた、その教訓が生かされず、また同じことを繰り返そうとしている。そのハンサムな紳士淑女たちの顔を見ていると怒りが沸騰して来ます。

言いたいことはわかるが……

出演者がきちんと答えられず変な論に逃げたのは間違いではある。
けれど、生放送の番組で、急にそういうふうに振られてフランス革命引用しつつきちんと説明、なんてできる人は少ないでしょ。
まして子供に向けての説明であるわけだし、子供がどういう意図で"平等"という言葉を使ったのかもわからない、という状況だ。この程度のことは仕方ないよ。

これで「NHKの反知性主義、ここまできたか」なんて書かれたのを見ると流石に温度差を感じてしまう。

No title

一面では正しいんだろうけど、平等って機会の平等ってのもあるので、あさイチの出演者もNHKも間違ってるわけではないですよね。機会の平等を肯定した上で、結果は自由に選ぶと言ってるわけなので。

むしろ、このテレビ番組をもって反知性主義などと断定してしまう八代さんは単なる一面的な知識に秀でているだけで、知識を融合させて新たなものを作り出す知性の欠けた方だ、という印象を強く受けますね。

なんか、主張内容が浅すぎです。

No title

別の記事を読んでみると、「マイナンバーに関するコールセンターで20秒10円の料金が徴収される」云々という、モノがあります。
http://news.infoseek.co.jp/article/shupure_55690/
内容的には、この記事はこのブログにおける「平等」に関する内容と全く関係がありませんが、一つだけ、「コミット」する部分があります。

このコールセンターに電話すると、なかなか回線がつながらず、結構待たされるようで、その待たされる間にも料金が発生するようです。

それで、「なぜこのコールセンターの利用を有料にしのか」という質問に対しての回答が、「コールセンターに電話をしてこられない国民の方も数多くおられます。平等性の観点から、お問い合わせいただくお客様には通話料をご負担いただくことになっております」というものです。

このマイナンバーのコールセンター有料化の回答で言われている「平等性」というのは、今回のブログ記事本文の内容に照らし合わせると、どのような解釈になるでしょうか?

No title

テレビと言う媒体そのものが、反射神経の良い人たちだけで構成されている感じがする。
しっかり、ゆっくり思考するタイプは居られなくて、脊髄反射的に反応できるタイプでないと生き残れない感じ。
その上、会長のモミイさんが反知性的なので、職場で権限を持つ人がどんどん反知性的になるのは、火を見るより明らか。
そのような人たちが重用するタレントのタイプは?
決まりでしょう。
それより、私にとってもっとショックなのは、大学から人文社会学系の学部をなくそうと言う話。
もしそのようなことになれば、
母国語で、人文社会学系の深い話、概念的話が出来なる。
(日本が文化国家でなくなる。かねの亡者・金の奴隷国だ)
そのことを憂える声が聞こえてこない。
実際、金に縛られ右往左往する大学人の話が、マスコミから漏れるくらいだ。
文科省も大学人も政治家もジャーナリストも、今の勝負に勝とうと、脊髄反射しているだけ。
八木様のように、歴史観もないようだ。知性の劣化に目も当られない・・・。
でも、思い直せば、昔だったら知ることもなかった八木様のご意見に触れることができ、こうして感想も伝えられる。
ガッカリすることばかりでは無いかもしれない。
勇気と希望を持って、これからも生きていきます。


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