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いつかこの日を振り返ったときに

 人の命の重さに軽重はないという意見があった。イスラム国で人質となり殺害された2人のことだ。
 しかしながら、後藤さんと湯川さんでは立ち位置はまったく違う。湯川さんは、実態はどうあれ、傭兵会社の代表として武器を携行して現地に行っている。兵士であるから、民間人である後藤さんとひとくくりにはできない。
 とはいえ、戦時下であっても降伏している人間を処刑するのは明確なジュネーブ協定違反なので、湯川さんの死は自己責任でも何でもない。後藤さんの処刑はなおさらである。国際法違反行為を行ったイスラム国に非があるのは自明であり、そこに正当化の余地はない。
 むろん、敵国であるシリアも虐殺を行っているとか、米国の主導する空爆でも多くの民間人犠牲者が出ているという指摘もあるが、それはそれでやはりジュネーブ協定違反の戦争犯罪なのであって、一方が戦争犯罪を犯しているから、もう片方の戦争犯罪が容認されるわけではないのは自明のことだ。

 しかし、それをさておいても、日本政府の対応や一部の世論は、人質を救うどころか、処刑してくれと言わんばかりのものだった。
 そもそも、昨年の10月から2人が人質になっていることを知りながら、手をこまねいて何もせず、あげくにイスラエルという国がアラブ世界でどのように見られているかを知りながら、(知らないなどという言い訳は通用しない)、それまでは日本に対して敵対的な対応をしていないイスラム国に対して挑発的な言動を行い、その結果、人質を処刑すると脅されると、交渉をまともに始めるよりも先に、閣僚が身代金を払わないと断言するなど、まともに交渉をする気もルートもないことを露呈させた。
 強硬な態度を取るふりをしていれば、向こうが勝手に「悪うございました」と反省して人質を解放してくれるとでも思っていたとしたら、相当な平和ボケである。
 過去の例で見ても、交渉をした国は(おそらく身代金を払って)人質を無事に解放してもらい、そうでない米国は人質を殺され、かつ、その後も国民が標的とされ続けているのだから、イスラム国がどういう対応を取るのかは明らかであったはずだ。
 中田元教授や常岡浩介氏といった、世界でも稀な「イスラム国とのパイプを持っている人」を国民に持ちながら、その貴重なパイプを有効利用するどころか、足かせを嵌めて、人質救出交渉を事実上妨害してきたのは、もちろん、政府と公安のメンツの方が大事だったからだ。
 
 クソコラで遊んでいた人たちも、同様に平和ボケが脳の中心まで来ている人たちなのだろう。相手が真剣であるときにふざけた真似をすれば、火に油を注ぐことはあっても、「一緒に笑っておしまい」になるわけがないことがわからないのだから。

 その挙げ句に、イスラム国は、これから日本国民がテロの標的になるであろうことを予告してきたというわけだ。彼らからしてみれば、これこそ自己責任ということだろう。
 むろん、そのような愚かな政権を選んだのは国民なのだから。
 そして、今になって、警察はモスクなどで厳戒態勢を取るという。極めて愚かだ。イスラム国には、ヨーロッパ諸国や中国から流入した非アラブ系の戦闘員もたくさんいる。血の雨が降らなければわからないだろうと思われたのだから、相手は本気で血の雨を降らせにかかってくるだろう。

 しかし、安倍総理は、これを機会に自衛隊を海外派遣できるようにしたいらしい。シリア軍やイラク軍は言うに及ばず、米軍ですら人質の救出ができないイスラム国相手に、自衛隊が大健闘できると本気で思っているのだろう。もはや何とかにつける薬はないとしか言いようがない。

 2015年の2月1日は歴史に残る日になるだろう。
 この日、私たちは、あっさりと泥沼の戦争に巻き込まれてしまったかもしれない。

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No title

ジュネーブ協定違反、国際法違反行為、ってそもそもそんなのイスラム国からすれば何勝手にそんな決め事作ってんのって言われて終わりでは?政府が政府がと言っても始まらないような気がするんですが。
それじゃー貴方はなにかしら対策や交渉してみたのですか?個人でもできる事はあると思うんですよね、やってもいないのに書きたい事書いたって何も意味内と思いますが?

No title

BLOGOSで拝見いたしました。

中東訪問での安部首相の言動には確かに配慮に欠いた部分が多かったことには同意します。

しかしながらその他すべてが自国批判に繋がるというのはいかがなものか。
ISILやイスラム過激派のプロパガンダを扇動することに繋がってないでしょうか?

処刑してくれと言わんばかりの世論も、クソコラで遊んでいた人も、
奴らが日本人に対して行った行為が無意味で恥ずべき行為であることを知らしめるための知恵だと思います。
誰も本気で死んでしまえばいいのにと考えている日本人はいないと思います。

ISILやイスラム過激派、また諸外国には理解があるようですが、
日本人のメンタリティ、「心の奥底」をもう少し理解することに努められてもいいのではないでしょうか?



No title

我々日本人が出来ることは、決して戦わないということだけ。そして謙虚に歴史に学ぶこと。大航海時代などという西洋の得手勝手な歴史観を反省して貰う。その手伝いを日本は客観的事実の積み重ねから検証ができる国だと考える。お互いの国が虚心坦懐にそれぞれの過去を振り返って双方の立場を共有し、その反省のもと未来へとつなげていく。そうした活動を地道に続けるしかない。

No title

「もはや何とかにつける薬はないとしか言いようがない」総理を圧倒的支持で(選挙)選んでしまう国民一人一人こそが、本当のもはや何とかにつける薬は
ないという事なんでしょうね。
まあ、そうでない国民まで道連れにされてしまうのが腹立たしいですが。

二人はどんな目的で、どうやって?

「I am Gotou」というプラカードに違和感を感じます。明らかに後藤さんは支持するが湯川さんはちょっと?という表明ですね。確かに湯川さんは民間軍事会社の「兵士」だったのでしょうが、彼のブログを見た限りでは、とても軽薄な印象です。無思慮でオッチョコチョイで、社会的にも経済的にも破綻していた彼に出資し、操っていた人達の存在を究明する必要があるのではないでしょうか。さらに、なぜそんな湯川さんに、「人権派のジャーナリスト」とされる後藤さんが、何度も同行し、最後はタイトなスケジュールで湯川さんの救出に向ったとされています。誰の通報で、どんな救出の可能性を受取ったのでしょうか。後藤さんの周囲や霞ヶ関には、その具達的な情報を知っている人達がいることでしょう。湯川さんの裁判の通訳をしようとした中田さんは公安に妨害され、湯川さんとの関わりでマークされていたはずの後藤さんは、ダーイシュの領域に行くことができました。事件の背景について、中東情勢や安倍政権の対応に対するマクロな検証は様々言われていますが、当事者達とその周辺に対するミクロな検証が、一次情報の少なさもあり、とても弱いと感じます。

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