スノーデンはなぜ、エクアドルを選んだか

 元CIA職員で、コンサルタント会社ブーズ・アレン・ハミルトンの元契約社員、という経歴よりもなによりも、NSAが個人情報を収集していたことを香港で暴露したことで、世界的な注目を浴びることになったエドワード・スノーデンが、エクアドルに亡命することになったことが24日、はっきりした。
 当初は、スノーデン氏は、アイスランドに亡命を希望しているとされたが、昨日、滞在先の香港からアエロフロート機でロシアに向けて出国したと報道され、ロシア経由で、キューバもしくはベネズエラに向かうとみなされた後、モスクワでエクアドル大使が接触したことが報道。さらに、ツイッターで、同国のリカルド・パティーニョ・アロカ外務通商大臣が亡命申請を受け取ったことを表明したことで、ハバナ経由でエクアドルに向かうことが明らかになった。

 ところで、なぜ、アイスランドではなく、キューバでもベネズエラでもなく、エクアドルなのか。
 ちなみに、Wikileaksのジュリアン・アサンジもエクアドル亡命を希望して認められ、現在も、ロンドンのエクアドル大使館に滞在している。(大使館外に出ると、保釈違反でイギリス当局に逮捕されるため)
 ここでも、出てくるエクアドル。なぜ、エクアドルなのか。あそこにはガラパゴス諸島以外に何があるのか、と思った方は少なくないだろう。

 2000年以後、中南米には、ベネズエラのチャベス政権誕生後、反米左派政権と呼ばれる政権が次々に誕生している。これらの政権の特徴は、80年代の軍事政権時代に新自由主義を導入したことで、貧富の差が拡大し、挙げ句に中南米の多くの国で財政破綻した「痛み」への反動から、生まれている側面が大きい。
 ベネズエラの故ウーゴ・チャベスが、キューバのカストロを師と公言していたことは有名だが、その後、立て続けに生まれた、ボリビアのエボ・モラレス、ニカラグアのダニエル・オルテガ、エクアドルのラファエル・コレア、エルサルバドルのマウリシオ・フネス、ウルグアイのホセ・ムヒカなど、すべて、単に左派というより、はっきりと「社会主義」を公言しているのが特徴だ。
 
 日本では「社会主義」というと、イメージされるのが、スターリン時代のソ連や、北朝鮮や中国であり、ポルポト時代のカンボジアであったりするため、「社会主義」のイメージはすこぶる悪いが、中南米で「社会主義」という言葉から連想されるのは、キューバ革命であり、ゲバラであり、アジェンデといった「強きをくじく弱者の味方」のヒーローである。

 そのため、これらの「社会主義」政権では、富裕層への課税、石油などのエネルギー資源の国有化、貧困層に対する福祉政策や教育・医療政策を強化したことで、主に富裕層が牛耳っているマスメディアからは、「ポピュリズム」「ばらまき政策」と批判され、選挙の度に猛烈なメディア・バッシングを受け、にもかかわらず、選挙では強い支持を受けて、再選を繰り返している点でも共通している。
 今年3月、その流れのキーパーソンだったベネズエラのチャベスが癌で死去したものの、後継者のマデロが当選しているのもその現れだ。

 ちなみに、このところ、ブラジルで連日大規模な反政府デモの嵐が吹き荒れているが、これも、左派を標榜して大統領に当選した労働党のジウマ・ルセフ大統領が、公約に反して新自由主義的な政策をとっていることに反発するものだ。

 話を戻そう。それでは、なぜ、エクアドルなのか。

 これら左派政権は、反米・反富裕層政権であるがゆえに、メディアからのバッシングに常に晒され、また、軍事クーデターの危機にも晒されている。
 軍事クーデターと言えば、1973年のチリのアジェンデ政権を転覆させたクーデターが有名だが、チャベスも数度のクーデターの危機に遭った。また、実際に、ホンジュラスは、左派寄りの政策をとろうとしたセラヤ大統領は軍事クーデターで失脚しているし、パラグアイも、「ねじれ国会」によって大統領が罷免されるという、国会クーデターが起こっている。

 その中で、エクアドルのラファエル・コレアは、かの有名な、チャベスの「ここに悪魔がいる」とブッシュを痛烈に皮肉った国連演説の翌日に、「ブッシュを悪魔に例えるのは、悪魔に失礼だ。少なくとも悪魔には知性がある」と記者会見で語って、一躍、世界に名前を轟かせた政治指導者だ。元々、経済学者でもあり、「一部の富裕層と大多数の貧困層ではなく、豊かな中流層こそが内需を拡大させ、経済を活性化させる」ということを目標に、新自由主義でぼろぼろになっていたエクアドル経済を建て直した。

 彼も、2010年9月末に、一度は、前大統領派によるクーデター未遂を経験しているが、そうはいっても、毎回、選挙では圧勝し、国民の支持率と政権の安定度という点で、これら中南米の左派政権の中では群を抜いているのが、亡命する側にとっては魅力だろう。
 ベネズエラは、チャベスの後継者マデロの就任で安定はしているが、チャベスほどのカリスマ性のないマデロの手腕はまだ未知数だし、治安の点でも、まだ問題が多い。ボリビアは、首都が3800mの高地にある、最貧国のひとつだ。
 その点、エクアドルは、日本では知られていないが、観光地としても美しく豊かな自然もあり、世界遺産にも登録されている首都のキトは赤道直下ではあるが、標高が2800メートルほどあるので、年間を通じて、涼しく過ごしやすい気候だ。エクアドル人はのんびりとした気質で、中南米で最も美しいスペイン語が話されていることでも知られている。さらに言えば、エクアドル料理は旨い。

(ちなみに、1960〜80年代に共和国派のスペイン人亡命者や軍政からの中南米亡命者を積極的に受け入れることで有名だったメキシコは、目下、麻薬戦争による治安悪化のうえ、親米政権でそれどころではないし、一部の日本人に「戦争を放棄した中立国」と思われて礼賛されているコスタリカは、単なる米国従属国であって、米国に基地を提供し、その傘の下にあることで、80年代の中米紛争に巻き込まれなかっただけなので、もちろん、アメリカ様に逆らえるようなことはできない国であるので、このような場合、論外である)

 政治的な安心感でも、暮らしやすさの点でも、エクアドルは、アメリカに睨まれた亡命者にとって「いい選択」といえるのだ。

 エクアドル:社会革命の賛歌(ラファエル・コレアの選挙キャンペーンソング)

テーマ : 政治・経済・時事問題
ジャンル : 政治・経済

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とてもわかりやすい解説でした。
ありがとうございます。
99年に中南米を旅した事が有ります。
いまだ剣呑な情勢なんですね。
ところで、スノーデン氏に対する米国民の反応ってどうなんでしょう?
政府側も引渡し要求する前に国民への謝罪が先だろって思うんですが

No title

ずっと英米系の多国籍企業で働いていたので、ブログを拝読して目が覚めたような気がします。
金融危機のときに、潰れそうな保険会社が政府の財政支援を受けながら、億単位の巨額のボーナスを経営幹部が受け取っていた時期から、現在のグローバル経済体制に疑問を持ち始めました。

「一部の富裕層と大多数の貧困層ではなく、豊かな中流層こそが内需を拡大させ、経済を活性化させる」
賛同します。日本が、少し前までは、いろいろ問題があったとしても、この状態だったことを思えば、コレア大統領の考えは正しいです。

とある外資系企業で経営幹部まで勤めた方が、グローバルリーダーを育成する塾を中高生向けに始めました。都内で始めた塾では、当初、中高生向けにも関わらず1〜2週間のコースに対して、40万円弱の受講料を設定していて驚きました。特に学位や資格が取れるコースでも海外に留学できる訳でもなく、短い期間のコースで中高生向けでこれだけのお金を出せる親御さんというのは富裕層に属している人達です。ここの塾長は日本人ですが、新自由主義を意識的にか無意識に掲げているのは明らかで、『グローバルリーダーになる人はお金がある人』で、この方の考えるグローバルリーダーとは「一部の富裕層」を育成することで、コレア大統領のように「豊かな中流層」を育てるということは微塵も思っていないのは明らかです。

エクアドル政府が、アメリカとの関税優遇特権をみずから放棄し、「いかなる脅しも圧力も受けない」との声明を発表したのを聞いて、こうゆう人がリーダーになったら、みなが豊かになると思いできるだけ支援したいと思いました。

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