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シンポジウム「検察・世論・冤罪Ⅱ」 羽賀事件を検証する

というわけで、事件の概略です。
1.jpg まず、大手メディアでは、羽賀事件は以下のように紹介されています。

羽賀被告は2001年、知人の会社社長に対し、1株40万円で取得した医療コンサルタント会社の未公開株を同120万円と偽って売り、3億7000万円をだまし取るなどした。

この事件では、元プロボクシング世界王者・渡辺二郎被告(56)も、羽賀被告らと共謀し、未公開株の代金返還などを求めた社長を脅し、帳消しを迫ったとして恐喝未遂罪に問われていたが、古川裁判長は1審の無罪判決を破棄し、懲役2年(求刑・懲役4年)の実刑とした。

http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20110617-OYT1T00725.htm

これだけ見ると、真っ黒ですね。(笑)

そして「卑劣で破廉恥な犯行。被害弁償も反省もなく刑事責任は重い」として、
yagi2.jpg
羽賀研二(恐喝未遂/詐欺) 一審無罪/控訴審懲役6年判決
渡邊二郎(恐喝未遂) 一審無罪/控訴審懲役2年判決
徳永数馬(偽証) 一審懲役1年6月・執行猶予3年(控訴中)
暴力団関係者2名(恐喝) 一審有罪(刑確定)
羽賀氏側代理人 恐喝容疑で逮捕→嫌疑不十分で不起訴

という、羽賀氏にはけっこう厳しい判決が下ったわけです。

で、これを検証してまいります。
論点は以下のとおりです。
  1. そもそも、これが詐欺に価するかという点
    • もともと未公開株は値段があってないようなもの。
      羽賀氏自身が、額面8万円の医療機器会社の未公開株を、上場したら数十倍に値上がりするといわれ、40万円で買っている

    • もしも羽賀氏が、医療機器会社の経営悪化や倒産の可能性を知っていて、その事実を隠して売り抜けたのであれば、当然詐欺罪は成立しえます。しかし、実際は、羽賀氏はA氏に株を売った金全額をつぎ込んで、自分自身も医療機器会社の株を買い増している。つまり、羽賀氏が、医療機器会社の倒産をまったく予見していなかったことは客観的に明らか。(ここで会場、かすかにざわめき)

    • 羽賀氏が被害者とされる告訴人の会社社長A氏に売り付けたのではなく、A氏から持ちかけられた。(羽賀氏の言い分)
      一方、会社社長A氏は羽賀氏が熱心に売り付けたと主張。(検察側の言い分)
      しかし、同時にA氏自身が、公判で「儲かると思って買った」ことを認めている。
      そして、問題の医療機器会社は1年後に倒産。みんな大損。もちろん羽賀氏自身も大損。

    • なので、この点では、さすがの検察も立件ができなかったとみえて、「A氏が羽賀氏の取得価格を知っていたかどうか」が詐欺罪の争点となっている

      むろん、ここでも検察側の言い分は「羽賀氏はA氏に、元値を教えず、高い値段を売り付けた」。羽賀氏の言い分は「A氏は元値を知っていて、そのうえで(未公開株はコネがないと買えないため)、羽賀氏から購入した」

      しかし、「A氏が羽賀氏の取得価格を知っていたかどうか」について、そもそも未公開株というのは、値段があってないようなもので、美術品やレストランの料理などと同様、そもそも売却にあたって、元値を知らせる義務があるのか? という重大な疑問。
      さらに、「上場すれば数十倍」と売り手も買い手も信じている商品にあっては、80万円の元値の差額は詐欺に価すると言えるか?
  2. 恐喝が存在したかという点
    • 和解の席で渡邊氏と暴力団関係者が会社社長A氏を脅して、書面にサインさせた。(羽賀氏は現場に同席せず)。ゆえに、検察は「羽賀氏が暴力団関係者と共謀」と主張。羽賀・渡邊両氏は「共謀」と「現場での恐喝」を否定。(ここだけ聞くと、弁明の余地はないように見えます)

    • 問題の被害者で告訴人A氏を脅したとされる暴力団員は、もともとA氏が連れてきた、つまりA氏サイドの人間。(ここで会場どよめき)

    • 会社社長A氏は弁護士を同席させていない。つまり、和解の席に出たのは、羽賀氏側は「羽賀氏代理人+弁護士」、A氏側が「A氏+暴力団員2名」

    • 脅して和解させたとされる一ヶ月後に、A氏と暴力団員は組んで、一緒に羽賀氏相手に偽造文書で12億円の取立をやっている。この私文書偽造に関して、A氏自身が公判で認めている。
  3. 証人への偽証罪適用の是非
    • 弁護側証人を偽証で立件というのは、過去に、八海事件甲山事件の2例でもあった。いずれも、有名な冤罪事件となり、ありえない禁じ手。これが認められたら、弁護側証人に立つ人はいなくなる。
      さらに、検察側証人が、明白な偽証を行っていたことが明らかになった事例でも、偽証罪が適用された前例はない。

    • 偽証罪で逮捕された徳永氏は、カフェでの会話で、羽賀氏がA氏に対して元値を話していることを証言。しかし、徳永氏の裁判で偽証とされた点は、この点ではなく、単に羽賀氏との関係性のみ。証言そのものが出鱈目という立証はどこにもない。

    • この徳永氏有罪のあと、検察は徳永氏の弁護士をも脅して、控訴させないように圧力をかけていた。

    • 徳永証言を裏付ける第二の証言者であるカフェの店長証言は、なぜか信用性がないとしてとりあげない。(会場ざわざわ)

    • 徳永氏偽証の検察側の大きな根拠の一つは、当時徳永氏が沖縄に住んでいたため、東京のカフェにいたはずがないというもの。そして、ANA便の搭乗記録に徳永氏の名前がないことを証拠として提出。しかし、同時期、JAL便には徳永氏の頻繁な搭乗記録があり、レンタカーの記録も残っている。検察はそれを隠していた。(会場、ものすごいどよめき)
要するに、あたくしの素人見立てでも、そもそも通常なら立件はあり得ないような事件を、「ブラックな印象のある有名人をアゲれば目立つ」という大阪府警4課と検察の暴走で立件して、しかしやればやるほど引っ込みがつかなくなり、挙げ句に証人が出てきて一審無罪になったので、さらに引っ込みがつかなくなり、その証人を偽証ということにしてパクって、むりやり有罪に持ち込んだとしか見えない話です。

しかも、個人的に、最大の問題は、それが去年の末から今年。まさに、大阪地検が、村木さん事件で赤恥をかいて、「引き返す勇気」とか言っていた時だということです。

テーマ : 政治・経済・時事問題
ジャンル : 政治・経済

tag : 世論冤罪検察

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恐喝未遂については羽賀氏がわの代理人であった吉川銀二氏が否定する証言をしていましたがこれすら無視されて有罪というのが信じられません。
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