日記を書き続けることを止めない人たち
「なんで本番で、リハーサルと全然違うピアノを弾くのかなあ」
と、私はよろけながら、録音ブースから出てくる。
「ピアノが違うから」と平然とレオナルド。「それに今の出来は悪くなかったよ」
悪くないのはわかっている。くやしいことに良い出来だ。が。私が思っていたのと微妙に違う。
「こいつがこういう奴だと君は知らなかったわけじゃないだろ」とエンジニアのハビエル。「ピアノが弾けるだけが取り柄の、世間の一般常識が通用しない、どーしようもない奴だ」
そう言いながら、いまや有名プロデューサーなのに、初日開幕早々にボランティアの音響エンジニアとして、ほいほい来ている君だって。
罵倒を平然と受け流して、ピアニストは言う。
「じゃ今の保存しといて。違うピアノ弾くから、次のテイクいこう」
そしてマルシアル・アレハンドロのもうひとつの遺作曲。うって変わって、静謐なピアノが流れる。
「日々を生きていくために日記を書き続けることを止めない人たち」
歌い終わって余韻が消えても、誰もOKともNGとも言わなかった。
ブースから出ると、音響のハビエルが赤い目をしていた。
「やっぱりバカピアニストの話に乗って良かった。いまのこれを聴けただけで」
「だから俺の言うことを聞いてりゃ間違いないんだよ、アホエンジニアが」
ピアニストも袖で目頭をぬぐっていた。
と、私はよろけながら、録音ブースから出てくる。
「ピアノが違うから」と平然とレオナルド。「それに今の出来は悪くなかったよ」
悪くないのはわかっている。くやしいことに良い出来だ。が。私が思っていたのと微妙に違う。
「こいつがこういう奴だと君は知らなかったわけじゃないだろ」とエンジニアのハビエル。「ピアノが弾けるだけが取り柄の、世間の一般常識が通用しない、どーしようもない奴だ」
そう言いながら、いまや有名プロデューサーなのに、初日開幕早々にボランティアの音響エンジニアとして、ほいほい来ている君だって。
罵倒を平然と受け流して、ピアニストは言う。
「じゃ今の保存しといて。違うピアノ弾くから、次のテイクいこう」
そしてマルシアル・アレハンドロのもうひとつの遺作曲。うって変わって、静謐なピアノが流れる。
平穏に生きてゆく人たち
通りすがりに悪さなどしない人たち
そんな人たち万歳
ものを創りあげていく人たち
自らの手で
求めるより与えることを知る人たち
そんな人たち万歳
そんな人たちこそ称賛に値する
ニスを塗らなくても輝く人たち
惨めにも不幸にならないよう
一人でも口笛を吹いて歩いていく人たち
口づけに心の半分を込めることのできる人たち
そういう人たち
自らの野生を御しつつ
生き抜いていく人たち
そんな人たち万歳
日々を生きていくために
日記を書き続けることを止めない人たち
そんな人たち万歳
そんな人たちこそ称賛に値する
一献の酒を捧げ
地平が灰色に塗りつぶされても歌い続ける
そんな人たち
幸せなときに
ただ微笑んでいる
そんな人たち万歳
通りすがりに悪さなどしない人たち
そんな人たち万歳
ものを創りあげていく人たち
自らの手で
求めるより与えることを知る人たち
そんな人たち万歳
そんな人たちこそ称賛に値する
ニスを塗らなくても輝く人たち
惨めにも不幸にならないよう
一人でも口笛を吹いて歩いていく人たち
口づけに心の半分を込めることのできる人たち
そういう人たち
自らの野生を御しつつ
生き抜いていく人たち
そんな人たち万歳
日々を生きていくために
日記を書き続けることを止めない人たち
そんな人たち万歳
そんな人たちこそ称賛に値する
一献の酒を捧げ
地平が灰色に塗りつぶされても歌い続ける
そんな人たち
幸せなときに
ただ微笑んでいる
そんな人たち万歳
「日々を生きていくために日記を書き続けることを止めない人たち」
スペイン語の詩を歌いながら、私の頭に日本が浮かぶ。たくさんのたくさんのブロガーたち。ツイッターで呟く人たち。出口の見えない暗雲が頭の上にある時代だからこそ、日記を書き続け、発信していくことを生のエネルギーへと変えていく人たち。いや、日本だけではない。世界中にそんな人々がいるのかもしれない。
この歌は、まさに、いまの時代の歌だ。詩人の遺作にふさわしく。
そして「地平が灰色に塗りつぶされても歌い続ける」人たち。
....これは、私が歌わなくてはならなかった歌だ。この歌は、まさに、いまの時代の歌だ。詩人の遺作にふさわしく。
そして「地平が灰色に塗りつぶされても歌い続ける」人たち。
歌い終わって余韻が消えても、誰もOKともNGとも言わなかった。
ブースから出ると、音響のハビエルが赤い目をしていた。
「やっぱりバカピアニストの話に乗って良かった。いまのこれを聴けただけで」
「だから俺の言うことを聞いてりゃ間違いないんだよ、アホエンジニアが」
ピアニストも袖で目頭をぬぐっていた。