とてもラテンな3つの話

アート話題に続いて、今日はラテン話題。

巷で話題のアルゼンチン映画「ルイーサ」を見にいってきました。
ばたばたしていたら、11月26日までの公開だということに気づいて、慌てて、映画館に駆けつけた次第。

ブエノスアイレスで、夫と娘を失ったトラウマを抱え、友達も作らず、にこりともせず、猫一匹と判で押したような単調な生活を続けていた60歳のルイーサに、立て続けの不運が降りかかる。
掛け持ちしていた仕事を二つとも退職金無しで解雇され、しかも猫が死ぬ。手元の所持金は小銭程度。
愛猫の埋葬費すら払えない事態に直面して、彼女は行動を開始する。

ま、そういうストーリーだ。

とはいえ、最初のうち、じつは、私は主人公に共感を持てなかった。

いくら映画上とはいえ、贅沢もせず慎ましく暮らしていた彼女が貯金ゼロという設定は不条理すぎないかというのもあるが、なにより、不当解雇された彼女は、浅ましいほど「強いものに弱く、弱者に残酷」。
つまり、彼女がまずやろうとするのは、不当解雇した事業主に抗議するわけでも訴えるでもなく、自分より弱い立場の人たちから取り分を奪おうという発想。
はっきりいって、「とことん自分勝手ないやなおばさん」なんである。
そして、更に言うと、彼女が解雇されたその本当の理由も(それが不当解雇を正当化するには至らないとしても)彼女のその性格にある。頑固で自分勝手。お高くとまって思いやりがない。

そして、とりたてて特技もないおばさんが、一文無しになったからといって、安易に何かをしようとして、もちろんうまくいくはずもない。

そんな、途中まではけっこう救いのない話が、途中から違う色彩を帯びていくのは、それがラテン映画だからだろう。
むろん、アメリカ映画にあるような、彼女がトントン拍子に成功を手にするというような話ではない。最後に至っても、ルイーサは、見事なまでに一文無しのままなのだ。

けれど、後味はまったく悪くない。なぜなら、映画の最後で、叫び、笑い、号泣し、感情を取り戻したルイーサは以前の彼女とは別人だからだ。
何故、そうなるのか、それは映画を見てのお楽しみなので、ここでは書かない。
しかも、ニヤリとするほど絶妙の音楽も相まって、ちょっと元気の出る映画に仕上がっている。
結論として、たいへんお勧め。


これを見て思いだしたのが、しばらく前に試写会を見た映画「愛する人」
こちらはハリウッド映画だが、コロンビア人監督のロドリゴ・ガルシア(あのガルシア=マルケスの息子でもある)の作品。(2011年1月公開)

ここでは、心に深い傷を持った、二人の女性が描かれる。
心に傷を負っているがゆえに、幸せで無邪気な他人が疎ましく、悪意で傷つけずにはいられない、そんな二人の女性が、それぞれに「あるもの」を得ることで、変わっていく姿が描かれた、これも余韻の美しい映画だ。

いずれもラテン系の映画監督ということと無縁ではないだろう。
冷酷に見える人たちの、程度の差はあれ、結果として「なんの良心の呵責もなくひどいことをやってしまう自分勝手さ」には、自分ではどうすることもできない理由があるというメッセージ。そして、その冷たい頑なな心を溶かすのは、いずれの映画にも共通する、とてもラテン的な感覚。

世の中は白と黒だけではない。そんなラテンの価値観に満ちた、たくさんの日本人に見てもらいたい映画だ。

ミ・ファミリア (諏訪書房)
そして、もう一つ、ごく最近読んだ本「ミ・ファミリア」
無名時代のジェニファー・ロペスが主演した、グレゴリー・ナヴァ監督作品の同名の映画(これまた良い映画だった)の方ではなくて、漢那朝子著『ミ・ファミリア―悲しいのに笑い、泣きながら踊ったベネズエラの日々―』(諏訪書房、2010年)

ファイバーアート(織物による現代アート)作家だったトモコが、やはりフランス帰りの現代アート系彫刻家だった夫フリオと出会ったのが、70年代の東京。そして、その夫がベネズエラ人だったことから、彼女はベネズエラに住むことになる。

そのベネズエラで、とりわけ濃ゆいラテン系家族との間に生じるカルチャーショックと、それ以上に、チャベス登場以前の、選挙というものが「利権の奪い合いそのもの」であった腐りきった二大政党制の中で、夫婦揃って「現代アート」というそれだけでは食べていくことが限りなく不可能に近いものを職としていたがために、国を代表するアート作家としての上流階級との交際から、スラムの生活まで、二人は目まぐるしく翻弄され、ついに筆者が自律神経失調症となって帰国をやむなくするまでの10年の日々が語られている。

というと、結末がわかっているだけに、やりきれない暗い話かと思いきや、「悲しいのに笑い、泣きながら踊ったベネズエラの日々」という副題がついているだけあって、これまた、後味の悪さのまったくない、むしろ読後に爽快感の残る物語なのである。
なにより、ラテンアメリカの庶民の生活の描写が魅力的。

そして、気づく。
最初のルイーサにも、「美しい人」にも、いうまでもなくトモコにも、その映画にも本のどこにも、自殺なんて解決は出てこない。
辛くても苦しくても、そこに微塵も閉塞感はないのである。

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