尖閣諸島と漁船と外交と

テレビをつけると、尖閣諸島問題をまだやっているので、ちょっと驚き。
というか、本気で、「今回の問題で、形式的には日本が譲ったが、国際的には中国が評判を落とした」というような解説が目立つのには失笑してしまう。

逆だって。
日本は最悪の対応をして、国際的に恥をさらしたのだ。

そもそも尖閣諸島は、歴史的に見ると、中国側の資料である琉球国中山世鑑(1650年)や指南広義 (1708)、中山伝信録 (1719)に記録が残っている。
むろん、そこが中国領であるとははっきり明記されているわけではないが、一方、日本の古文書である皇国総海岸図(1855年)に尖閣諸島は記載されていないのはちょっと痛い。というかもっと後の沖縄志(1877年)にも、日本領としては記載されていない。

要するに、この時代にはどうでもいい島であったわけである。
それが重要性を帯びてきたのは、19世紀末にアホウドリの群生(当時はアホウドリの羽毛はお金になった)が発見されたからであり、さらに後に20世紀になって、ここに油田が発見されたからだ。
要するに、ここは伝統的に「微妙な場所」なのである。

そして、尖閣諸島は、現在日本側が「実効支配している」という論調が主流になっているが、実際にここに日本人が住んでいるわけではない。無人島である。
だから、北方領土やフォークランドと比べても、「実効支配」というには、さらに微妙な問題がある。

それだからこそ、日中平和友好条約を結ぶ過程で、この尖閣諸島問題は「解決を次世代へ棚上げ」されている。具体的には、1978年10月23日に、小平中国副首相が日中平和友好条約の批准書交換の際、日本記者クラブで行われた会見でそう述べているわけで、つまり、この時点で、日中双方、それがデリケートな領土問題であることを、双方共に認識していることになる。

つまり、日本側から見れば、「中国の漁船が領海侵犯して、巡洋艦に体当たりしたのだから犯罪、だから逮捕する」という見方ができるが、中国から見れば、「中国の領土で中国の漁船が漁をするのは違法行為ではない。そして事故により、巡洋艦に衝突したことをもって逮捕というのは異常な扱いである」ということになる。

ここで素朴な疑問。
巡視艇みずきは180tある。46.0mで35ノットの船である。一方中国の船「閩晋漁5179号」はトロール漁船だ。せいぜい10mというところだろう。大人と子供である。
http://twitpic.com/2m381i

このトロール船が、巡視艇に体当たりというのは、自殺行為以外の何者でもないのではないか。
むしろ、逃げようとして、操船を誤り、ぶつかったというのがより正確ではないのか。
だとしたら、操船ミスによる事故である可能性もある。

実際、2008年、台湾漁船「聯合号」と海上保安庁の巡視船「こしき」が衝突し、聯合号が沈没した事故が発生。台湾の一部から反日世論が沸騰し、後、日本側が海保巡視船の過失を認めて謝罪を表明し、3000万円相当の賠償で和解している。
そういう前例まであるのだ。
そして、この件に限らず、中国の漁船がこの領域に入ってきているのは、実はよくあることで、それらについては、いままである程度黙認されてきていたという経緯がある。

というより、ここが「外交上棚上げになっている問題の場所」で、にもかかわらず、日本としては「領土問題は存在していない」という立場をとるほど微妙な場所であるならば、海上保安庁はあくまで「事故。ただし、今回は巡洋艦ではなくて、漁船の方の過失が大きいケース」として処理するべきだったのである。
「日本国内の事故」として処理し、乗組員をすみやかに中国に返還すれば、何ら国際問題はなかった。

その挙げ句に、那覇地検が「外交上の配慮によって釈放」。
これは、「検察よ、あなたはいったい何様だ」ということ以外の何者でもない。
いつの間に、検察は外交まで担当するようになったのだろう。怒れよ、外務省。
郷原弁護士は、即座にツイッターで「前田検事のファイル日付捏造より大きな問題として、後に問題を残す」との意を述べたが、外交的にはまさにその通りだ。

一説には、大林検事総長が、官邸からの圧力を受け、法務大臣の指揮権発動を避けたので、あえてこのような方法をとったのではないかという論説もあったが、外交にかかわるようなこのような重大問題だからこその指揮権の存在意義なのである。なぜ、指揮権の発動を避けなくてはならないのかが理解できない。まさに検察のメンツのためだとでも言うのだろうか。
むしろ、法務大事の指揮権発動による釈放であるなら、まだしも、「日中関係に配慮した」という官邸のメンツも検察のメンツも立ったのである。コトは大きくなってしまうけれど。

だから、この件によって、愚かにも、日本は、「この海域に領土問題は存在する」ということと、「日本では三権分立がまともに機能していない」あるいは「まともな判断もできないほど、馬鹿」ということを世界に宣伝してしまったのだ。

なぜ、ここまで馬鹿なことになってしまったのか。
先の総裁選で、あそこまで徹底した反小沢キャンペーンを張り、総裁選後も徹底した小沢派パージをやってしまった菅総理と仙谷官房長官には、いまさらどの面下げて、「中国と近い」小沢氏に仲介を頼めるだろうか。

というか、中国の今回の強硬な姿勢にもそれは垣間見える。
親中国派であった小沢氏に、ここまで徹底的にネガティブキャンペーンを行い、排除しようとしている政権相手なのである。むろん、小沢排除のその裏で、菅~仙谷派がきっちり中国との外交ルートを確保し窓口を作っていたなら別だが、小沢叩きにばかり夢中でそれをやらなかった以上、中国としては「管政権は反中国路線を取るであろう」というレッテルを貼るのが当然である。
そういった「自国に敵対する」政権には、容赦なく揺さぶりをかけるのは、また外交の常識でもあるだろう。

少し話戻るが、前田検事のファイル改竄問題で、彼がそれ以前にかかわった事件にもことが波及するのが当然と思われるが、ふつう、民主党がまっとうな党なら、小沢問題もこれを機に問題にするものである。身内が冤罪の可能性が出てきたなら。
ところが、この件に関しては、検察は正しいと臆面もなく主張するのが、自民党ならともかく、身内の民主党って? まさに仲間を後ろから撃つ連中である。
だからこそ、中国がよけいに強硬に出るのは無理もないだろう。

そして、中国の読み通り、レアメタル禁輸の言葉で、日本は震え上がった。

中国だって日本に依存している。中国には日本の環境技術が必須、などとTVで騒いでいる御用コメンテーターがいたが、笑ってしまう。
現在の世界では、ほとんどすべての国は互いに依存しているに決まっている。
しかし、依存度の高さを問題をするなら、日本が中国に依存している度合いの方が、その逆よりも遥かに大きいのだ。
中国からの貿易が滞り、中国の生産拠点をすべて失えば、あっという間に日本経済は崩壊する。その場合では中国にだってもちろん痛手はあるが、実は日本ほどの決定的なダメージにはならない。つまり、その時点で、チキンレースは勝負はならないのだ。

とはいえ、仙谷氏にしても前原氏にしても、けして馬鹿ではないはずである。馬鹿呼ばわりしているブロガーなどがいるが、けしてそんなことはない。それなりに勉強ができ、世渡りもやってきた人たちなのである。

鳩山氏が辞任せざるを得ない状況に陥ったのを見て、また、小沢氏追い落としのための冤罪でっち上げから、不起訴になってもとことんバッシングという見事なまでのメディアスクラムを目の当たりに、「おとなしく米国追従してないと、どういう目に遭わされるか」骨身に染みたのか。それとも、「おとなしく米国の言うことさえ聞いていれば安泰で間違いない」という開き直り、または無邪気な信頼なのか。

いずれにしても、そこに日本国民の利益、は存在しない。
そして、日本の首脳がそのような状態であるなら、今後、中国は、すべての事実上の交渉先を米国と見定めることだろう。こうして、日本は米中の谷間に沈む。経済的には既に今年、GDPで中国に抜かれ、外交は瀕死だ。

それがもっとも怖ろしい。

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No title

一応、尖閣諸島は、埼玉県民の方が所有しているそうですが、
それでも日本の領土と言い切れないのでしょうか?

所有権

>>一応、尖閣諸島は、埼玉県民の方が所有しているそうですが、

その件は、昭和初期に、民間の方が政府の払い下げを受けたという話だと思います。

ただ、中国の主張は、当然ながら、そのはるか以前の段階から、もともと尖閣諸島は中国領だったという主張なのです。ですから、この払い下げそのものが無効ということになります。

それが正しいという話ではありません。
主張が平行線であるのと、現在、人が住んでいるわけではないので、「実効支配」という主張が、国際的には弱いものだと見られるという話です。

それと、漁船の件も、本当に事故だと、私が主張しているわけではなく、「外交を考えるのであれば、あえて問題にしないで黙殺するか、あるいは、問題になってしまった場合は事故として処理するべきだった」ということです。

※誤って、このコメントの前の卓さんのコメントを削除していました。改めて投稿し直しましたので、投稿日時にずれが生じています。申し訳ありませんでした。

No title

聯合号事件でも、今回のビデオ流出でも、司法修習生の問題でも、
海保の情報開示・管理には問題が多い。

ただし、今回は中国漁船側が意図的に追突してきたことは明らかであり、
この記事の該当部分は誤りで、修正が必要だと思います。

明治二十年の地圖で尖閣の西に國境線

今晩は。「琉球國中山世鑑」も「指南廣義」 も琉球側の著書です。「中山傳信録」は清國の著書ですが、清國官船が福州を出航後、尖閣の西方約300kmで早くも琉球國の公務員が羅針盤役をします。日本の「皇國總海岸圖」「沖繩志」は日本が領有する以前の無主地時代の地圖ですから、尖閣が載ってゐないのは當然です。詳細は拙著『尖閣反駁マニュアル百題』(平成二十六年、集廣舍刊) http://www.amazon.co.jp/dp/4916110986 をご覽下さい。
「この時代にはどうでもいい島であった」といふことはなく、古來尖閣は琉球人にとって重要な航標でした。歴史ある島なのです。西洋製地圖でも大きく記載されてゐます。例へば明治二十年のスタンフォード圖、Stanford's London atlas of universal geography 1887 MAP Ra186 Part 67 豪洲國家圖書館藏本。 http://senkaku.blog.jp/archives/10088374.html 大きく描かれた尖閣諸島の西側に國境線があります。
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