続・『特捜神話の終焉』感想

 実は私は、仕事でテレビの番組や取材のコーディネーターをやったり、企画に加わったりしたことが何度かあります。
 当然だが、まず、こういったことは企画書作りからはじまるわけですが、ある案件について、ぜんぶ事情を知っている人間が企画を立てるということはふつうないのですね。
 つまり、たいていはプロデューサーなりディレクターの「こういう内容で、こういう落としどころの番組を作りたい」という展開となるわけ。はじめっから。

(まあ、ぶっちゃけ言うと、もっと単純なバラエティーなど場合でも、日本の番組のほとんどはそういう仕組みで成り立っているはずです。)

なので、たとえば海外ネタの場合、

「経済難の中で、独裁者の圧政に苦しんできた民衆の姿を背景に、美少女の成長ストーリー」とか
「戦火の中で故郷を離れて、異国で成長したAさんが、10年ぶりの祖国に戻り、親戚と涙の対面ストーリー」

みたいな「企画」が「会議」を通って、予算が出て、その国に取材に行くわけ。

で、企画を作る段階から現地事情に詳しい人間がかかわっていたらいいのだけれど、困るのは、その企画書が会議を通ってから、コーディネーターに依頼が来る場合。
 その国の事情を知っていれば、「それはちょっと無理」みたいな企画だったりすることがあり得るわけね。だって、文化が違えば感性は違うし、そもそも、紛争ネタなんかだと、その背景が「ふつうの日本人がなんとなくわかったつもりになっている事情」とけっこう違っていたりすることがあるから。

 で、そういう場合、どうなるかというと、たとえそうだったとしても、「通った企画を根本的に変更すること」ってないのですね、
(なので、コーディネーターとしては、この時点でお断りするか、ビジネスとして受けて、むりやり企画書通りのものを作るのに協力するしかないわけです)

 ここで、話のわかるディレクターが、「では、臨機応変に。結果的に違う結論になったとしてもソレはしょうがないですね」というようなことは、じつはほとんどありません。多くの場合、ディレクターは「いったん通った企画書通りに、どんなに無理があろうとも作る」のが、TVマンの仕事だと信じているからです。
 そうやって、机上で想像したストーリーに沿って、「ドキュメンタリー」がつくられる、なんてことが、実は珍しくないわけ。それも、当然「視聴者受け」を狙ったストーリーで。

 で、当然、そんなことをしたら無理があります。特に外国ものは。
 でも、無理があるのなんて、「プロのテレビマン」にはへっちゃらです。あくまで企画書の台本通りに行くのです。もちろん、多少のディテールの変更はあるにしても、「根本的な見直し」というのはありえません。

「○○はとんでもない犯罪者であって、その悪人の素顔を暴く」というストーリーで番組を作ろうということになったら、だから、プロデューサーもディレクターも、微塵の疑問もなく.....というか、心から本気で、そういう番組を作るわけです。

なにより、私たち日本人は、子供の頃から、「物事は計画的に」と教えられ、学んできています。
計画通りに実行するのが「良いこと」で、「行き当たりばったり」は良いことではない。
少なくとも、勉強のできる優等生は、そうやって優秀な成績を収めてきた人たちが多い。

「ころころ変わる」というのは、日本においては「許すべからざる愚かな行為」とみなされるのは、先の鳩山辞任問題でも、そのバッシングの主要な理由のひとつにされたこと。
中国古典の名言である「君子豹変」の意味も、たいがいは誤解されている。というか、むしろ日本では誤用が定着している。
そういう日本の文化、日本人の根強い価値観が根底にあるのでしょうか。

だから、たぶん、その現場の段階の部分では、「わかりやすい上からの圧力」みたいなものは、たぶんあまりないのです。
現場の人間自体が、なんの疑問もなく「企画書通りに作るのが、俺たちの腕の見せどころ」と本気で思っているわけだし、そこで、「ひょっとして○○って、それほどの悪人ではないのかも」みたいな事実がボロボロ出てきたところで、「ころころ変わるのは良くないこと」だから、そこは本当に無視しちゃうわけですから。
そして、たぶん、彼らは、本気で「正義の代弁者」のつもりなのです。

私はある撮影で、インタビュイーが「ディレクターが求めるセリフを言ってくれるまで」、インタビュアーにまったく同じ質問(それもかなり誘導尋問に近いもの)を数時間にわたって延々と繰り返させた、という現場を一度ならず見たことがあります。
あるいは、求めている答えを言ってくれる人が出てくるまで、ひたすらたくさんの人にインタビューを繰り返す。

これは、常識的な感覚だと「偏向」とか「ヤラセ」というのですが、もちろん、日本ではこの程度のことは、ヤラセでもなければ偏向報道でもありません。だって、台本通りに作るのが「腕」なのだもの。

で、もって、それぞれの現場の人って、「とってもいい人」だったりするわけね。ほんとに。
そして、優秀なんですよ。けっして、「いわゆる馬鹿」なんかではない。

このへんが、日本のメディアの「根っこがビョーキ」な部分、だと私は思っていたのですが、郷原氏の著作などを読むと、これとまったく同じ構図が、検察にもあると。しかも、その検察はメディアの影響を受けて、立件することがあるらしいと。

これはおそろしい。
そして、TV局と同じように、たぶん検察でも、優秀な彼らは、元優等生で、きちんと精密な計画をたてて、それを確実に実行することで優秀な成績をおさめてきて、だからこそ、それがなににも勝るだという価値観を持って生きてきた人たちなのでしょう。

で、その現場の人間には、上から圧力をかけられている、というような感覚はなく、あくまで自分の意志で、自分たちこそ正義と信じ、「自分たちが作ったストーリー」に基づく供述調書にサインをさせるためなら、弁護士なしの取り調べも、法外な長期拘束も、恫喝も、褒め殺しも、場合によっては暴力さえ辞さない、と。

さて、私は、政情不安な中南米で長く過ごしましたから、軍事政権時代や、冷戦時代に「冤罪もしくは政治的理由で拷問を受けた」という友達が何人もいます。彼らから、拷問の中身について話を聞いたこともあります。(聞かなくてもわかる、物理的に悲惨なケースもありますが)

とはいえ、拷問にはいろいろなやり方があります。
なにも、鞭で殴ったり、指を切り落としたり、水攻めにするのだけが拷問じゃありません。露骨な痕跡がわからないように、ずっと(足が腫れ上がるまで)立たせておくとか、ピストルをこめかみに当ててロシアンルーレットの真似事をされるとか、点滅ライトを長時間目に当てるなんてのもありましたね。
家族や友人に危害を加えるとか、一生出られないぞとかいう脅しも立派な拷問です。

なので、日本の検察のやっていることは、国際常識的には十分「拷問」と呼ばれるものであると、明確に定義できますが、日本の検察にとっては、もちろん、「拷問」というのは江戸時代とか発展途上国の独裁国家でのみ行われるものであって、彼らが、「自分たちが作ったストーリー」が真実であると信じて、行う精神的なソレが「拷問」だとはまったく思っていないらしい、ということですね。

まったく同じ構図ではありませんか。
しかも、検察は、人間の人生を簡単に破壊するというその威力でやるんだから。そして、この検察が、さらにリークという形でメディアとタッグを組んだら、もう、こわいものなしの「2大正義」には、なんでもできてしまう、と。

それゆえに、こういった現場の人たちに、上手に「企画書のアイデアを渡す」ことさえできたら、あとは、正義感が強くて、真面目で、まっすぐで、むろん学歴も高くて、能力もある現場の人たちが、パワー全開で、企画書通りの脚本を書き、演出して、作り上げてくれるということですね。
もちろん、企画書の大元がどこから出てきているかなんて、気付かずに。

そして、文化人類学における日本研究の分野において名著とされる「菊と刀」にも指摘されているように、日本人は、「内部の基準でなく、外部の声を意識して良心を組み立てる「恥の文化」の持ち主。

検察ガダルカナル化((c)郷原信郎氏)とはよく言ったもので、太平洋戦争の時から本質はまったく変わっていないのだとしたら、なんとも扱いやすい国民です。

おっと、その「菊と刀」は、そもそも第二次大戦の時に、米国戦時情報局(後のCIA)の資金提供で、「対日戦略及び戦後の対日処理案を立てるための研究」だったんでしたっけね。

テーマ : 紹介したい本
ジャンル : 本・雑誌

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