PANDORA REPORT 南極編・その14

 南極を過ぎ、南米大陸の最南端地域に戻る。
 といっても、アルゼンチンのウシュアイアではなくて、チリ側に出て、プンタ・アレーナスへの寄港である。

 ウシュアイアより規模の大きなこの街は、港もすぐに街の中心まで徒歩で行けるほど近いわけではない。
 ので、船着き場から出たところを、ちょうど3人組の女の子たちがタクシーに乗るところを見つける。
「あ、私も便乗させてねっ」

 ひとりで乗るより、その方が安いもんね。
 タクシーが走り出すとすぐ、私がスペイン語がわかると知って、運ちゃんが話しかけてきた。
「プンタ・アレーナスはもちろんはじめてだろう」
「......いや」

 実は、私はプンタ・アレーナスには以前来たことがあった。某テレビ局の仕事である。
「じゃあ、そのときにペンギンも見に行ったんだね」

実はこのプンタ・アレーナスは、夏場、ペンギンが営巣することで有名なのである。

「...いや、それが....」
「えっ、プンタ・アレーナスまで来て、ペンギンの営巣地を見に行かなかったの?」
「行けなかったのよ.......冬に来たから」

そうなんである。あれは冬のことだった。それも真夏の7月の日本から、冬の南極最接近地までの旅であった。灰色の空に吹きすさぶ寒風のプンタ・アレーナスに。

そこで運ちゃんは振り向いた。

「あんた、冬のプンタ・アレーナスに来るって、ひょっとしてアホ? それとも仕事?」
「いくらなんでも観光で来るわけないでしょ」
「そら、そうだ」

.....と、まあこういう会話が成立するほど、灰色のところだったんである。冬のプンタ・アレーナスは。

ところで、このプンタ・アレーナスには、妙な伝説がある。

街の中央の広場にマゼランがインディオを踏んづけているというひどい銅像があるのだが、この足元のインディオを愛情を込めて撫でると、またこの街に戻ってこられるというのである。

で、前回、仕事で来たときに

「な、わけないじゃん」

と思いながら、いちおう、一生懸命、インディオの背中を撫でた八木だったのだが、まさか本当に戻ってこられるとは、ピースボート様々なのか、はたまた、インディオの呪いなのか、それはわからない。

ちなみにこれと似た話に、キューバのカマグエイで、素焼きの水瓶のミニチュアを買って帰ると、またキューバに戻ってくるという言い伝えがある。
で、私は2回目にキューバに行って、キューバ島をバックパッキングで横断した1987年に、ふざけてミニチュアの水瓶が20個もつながった飾り物を地元のおばちゃんにもらったら最後、その後、どういうわけか20回以上キューバに行くことになってしまった。
偶然と割り切るには、なかなか奇妙な話である。(と、こうやって都市伝説は生まれる)

で、私は言った。

「だからね。前回、あの例のインディオの銅像を一生懸命撫でたわけよ。また戻ってこられますようにって」

「おおっ、そうだったのか」
運ちゃんは、深く感銘を受けたようだった。

「街からペンギンの営巣地って、どれぐらいかかるの」

「ざっと3時間だね。行きに1時間。帰りに1時間。現地で1時間。ツアーだとひとり20ドルぐらいかな。ただ気をつけなくてはいかんのは、ペンギンを見に行くなら、朝か夕方だってことだ」

「なんで?」
「だってホレ、ペンギンは営巣地から昼前に出て、海に魚取りに行くから。で、夕方帰る。」

 なるほど、ペンギンも出勤するわけね。お家で見るなら、朝か夕方。

で、交渉してみた。このタクシーだったらいくら?
待ってましたと、運ちゃんが金額を提示。4人で110ドル。100ドル。
で、これ以上は、下げない。

でも、旅行代理店のパッケージツアーが15ドル程度だとしても(実際に運ちゃんが行っている20ドルが高めだとして)、自由度を考えると、ひとり25ドルなら悪くはない。

というわけで、女の子たち3人に持ちかけてみると、別のタクシーで先に行った友達3人も同じ条件なら行きたいという。

で、街に着いたところで、先行のタクシーを捕まえ、交渉してみた。
ただし、こちらも3人で100ドルと運ちゃん。どうやら、最初に提示するのが110ドルで、10ドルまける、というのが決まった相場のようである。

「でも、3人で100ドルは割り切れないから、90ドルにしてよ」
「それは駄目」

と、この会話を聞いていた、最初の運ちゃん、突然携帯で電話をかけて話し始めた。

「....そうなんだよ。1台目が4人で100ドル。で、2台目は3人で90ドルだったら、2台の仕事なんだけど、そうじゃないと誰も行かないっていうんだ.....」

タクシー会社と話をしているらしい。値切れないわけで、運ちゃん個人の裁量では相場を崩せないようだ。
「しかもねえ。こっちのお客さんのひとりは、前に冬に来ちまって、それで一生懸命、夏に戻ってこられるようにインディオを撫でたっていうんだよ」

おいおいおいおいおい、それは関係ないだろう。.........と。

「オッケー出たよ」と、運ちゃん。

恐るべし、インディオ。逆らうと祟りでもあるらしい。

こうして私たちは、ペンギン営巣地に向かったのだった。

(続く)

テーマ : どうでもいい報告
ジャンル : 日記

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