番外・豪華客船とミステリ

さて、豪華客船を舞台にした推理小説というので、実は私が思い出したのが、次の5冊。


偽のデュー警部

 花屋の店員アルマは歯医者に恋をするが、その歯科医にはわがままな女優の妻がいた。しかも、このところぱっとしない彼女は、旧知の喜劇王チャップリンを頼って、アメリカに渡ると言い出し、しかも夫にも歯科医を畳んでの同行を求める。かくして、恋を実らせるには、彼女を殺すしかないと思い詰めた二人は、豪華客船で妻を海へ突き落とす完全犯罪を企て、偽名を使って乗船するが、この船上で全く別の殺人事件が起こったことで、物語はとんでもない展開をすることになる。

 私がピーター・ラヴゼイにはまるきっかけになった一冊。もはやミステリの古典的名作のひとつと言っていいと思います。



ナイルに死す(ナイル殺人事件)(アガサ・クリスティ)

 美人でしかも大富豪のリネットは親友のジャクリーンから恋人のサイモンを奪って結婚する。
 しかし、その新婚旅行先のエジプトに、裏切られた悲しみのあまりストーカーと化したジャクリーンが追ってきていた。
 そのナイル河の豪華客船上で、ジャクリーンが狂乱の末、サイモンを撃って重傷を負わせるが、さらに翌朝、妻リネットが寝室で殺されているのが発見された。
しかし、もっとも動機のあるジャクリーンは、発砲事件を起こしたために見張られていたため、殺害不可能。

 では、いったい、誰がどうやってリネットを殺したか、を、たまたま船に同乗していた名探偵ポワロが推理するという、古き良き時代の古典的名作。
 映画にもなっています。(映画化タイトルは「ナイル殺人事件」)



リヴァイアサン号殺人事件

 少し前に、ロシアの超ベストセラーで、「かの国でミステリを文学にした」という宣伝文句で売り出されたボリス・アクーニンの作品。文春の「このミステリがすごい」でも上位に出たはず。

 パリで起こった凄惨な英国貴族の一家全員の殺人事件の犯人が、豪華客船リヴァイアサン号煮乗船しているという情報のもと、パリ警察の敏腕警部が船に乗り込むが、船は怪しい人だらけで、さらに妙な事件が続発する。この状況下、船客であり、美貌の若者ファンドーリンが捜査に加わる。
 主人公がやたらに超人的で(美形で大富豪で天才で性格が良くて、しかも確率をまったく無視して賭け事に強いという設定で)ややけれんみが強いのですが、そこで嫌にならなければ、面白い作品です。

個人的には、同じ作者なら、私には「アキレス将軍暗殺事件」の方が面白かったかな。

あと、ロシアのミステリ、彼が登場するまでけしてレベルが低かったわけではありません。確かに、アクーニン作品は、古き良きグランドミステリの風情があって、エンタテインメント性はあるけど、むしろ、現代のロシアを描くアレクサンドラ・マリーニナの方が文学としての深みがあると思うんだけどな。


そして、盲目の理髪師(ディクスン・カー)

 これまた古典系。
 大西洋をニューヨークからイギリス・サザンプトンに向かう豪華客船クィーン・ヴィクトリア号で、大物政治家の政治生命を左右するスキャンダルフィルムの盗難事件が発生するが、さらに、これに瀕死の謎の女性やら、別の宝石盗難事件やら殺人事件と、話はだんだんどんどん複雑にこじれていく。この怪事件の真相を、安楽椅子探偵フェル博士が推理する。

 ディクスン・カーというと、怪奇系不可能犯罪小説の大御所なんですが、ただし、この作品は、酔っぱらい系スラップスティック・コメディ風味。
 (酒飲みにはウケます)



 さらに、海のオベリスト(デイリー・キング)

 ニューヨーク発シェルブール行の豪華客船メガノート号でのイベント(オークション)の最中に、照明が消えて、銃声が。そして、アメリカ人大富豪スミス氏が即死し、その隣にいた美貌の娘も失神し、その首に掛かっていた高価な宝石のネックレスが奪われていた。しかも、銃声は一発なのに、富豪の体内から銃弾が2発見つかり、しかも死因は銃創ではなかった。
 この謎を、たまたま学会のため、船に乗り込んでいた4人の心理学者が、それぞれの心理学分析によって解明しようとするが.....?

 なんといま世界の注目を集めるハイチを舞台にしたおそらく唯一のミステリであり、かつ、サービスてんこ盛り驚天動地の怪作「死の相続」をはじめとして、世に埋もれていた佳作を次々に世に出してくれている原書房のヴィンテージ・ミステリ・シリーズの一冊だけあって、これもなかなかの怪作なんですが、けして駄作ではありません。それぞれの心理学の考え方が、パロディとはいえ、きっちり描かれています。作者自身も心理学者だとか。道理でね。そして結末にニヤリ。


 ほかにも、私は未読なのですが、タイタニック号沈没事件をモチーフにした、エヴァ・ライカーの記憶(ドナルド・A. スタンウッド)、エラリー・クイーン風の謎解き物であるらしい死を招く航海(パトリック クェンティン)
 日本物だと、作者さんが実際に豪華客船に乗って取材された(すがやみつる氏談)という豪華客船エリス号の大冒険(山口 芳宏)というのがあるようです。

 さらに、名探偵コナンとか浅見光彦ものとか、33分探偵でも豪華客船を舞台にしたものがあったようです。
 皆様、いろいろ情報をありがとうございました。

 で、豪華客船がなぜミステリにぴったりなのかといえば、もちろん、クローズドな世界だという点と、乗客が富裕層なので、殺人や盗難の被害者として設定しやすいという点に尽きるんでしょうね。

テーマ : 本とつれづれ
ジャンル : 本・雑誌

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