メキシコつれづれ

今回のメキシコ滞在。
日記があまり頻繁ではなかったのは、少しわけがあります。

今年の3月に急死した、私の盟友の作曲家マルシアル・アレハンドロ
彼が死んだとたんに、メキシコのあらゆるメディアは、「有名作曲家の死」を大々的に報じ、テレビサ(メキシコ最大のテレビ局)までが追悼番組を流しましたが、実際には、ボヘミアンで知られた彼の生前の生活は、けして経済的に恵まれていたとはいえないものでした。
その半分は、彼自身の不器用で破滅的な生き方のせいですが、残りの半分は、彼の才能を勝手なときだけ利用し、都合の良いときだけもてはやしてきたメディアや製作者や大衆の冷たさのせいといっていいでしょう。

いくら芸術的評価が高くても、ポップスとして大量消費されなければ、たいした印税など入らないし、ライブの収益だって知れたもの。マネジメントが強力でなければ、営業系の公演だって、そんなにあるものでもない。
なまじ顔や名前が知られているだけに、半端な手伝い仕事をするわけにもいかないし、失礼だと思われて細かい仕事も入ってこない。
........ああいう天才型の作曲家が、たいした贅沢をしているわけでもないのに、日々の支払いに苦労なんてしてちゃ、長生きなんてできるわけないです。

という愚痴はともかくとして....。
日本で彼の死を知ったときにも、私はそれなりに落ち込んだモノでしたが、ここメキシコに来て、改めて、メキシコシティの空気の中で、この20年近く、いつも兄弟のように私を待っていた彼がもういないことを実感するのは、改めて深い悲しみがありました。

そして、彼の遺族の話を聞いたり、そのからみで、複数のレコード会社にまたがる彼のCDの権利関係などを調べたり、折しも、ジャズ歌手のマージ・ベルメッホが行った追悼ライブに出席したり、ラジオのインタビューを受けたり.....とまあ、「あんたはどういう親戚?」みたいなことになっていたわけです。
さらに、彼が彼自身の死を予感し、その予兆を周囲にひた隠していたのではないかという疑惑。

いずれにしても、かつてマルシアルが私にくれた「Esta Mujer(この女)」という曲。

 歌うことは、私の喜び、私の命、私の天職
 歌うことで、かたち造られた、この女...

「....こんな曲を捧げられて、感激しない女性歌手がいるだろうか」とまでいわれたその曲を最初に歌い、最初に録音したということで、日本人であるにもかかわらず、私の名前も、天才のかたわらで歴史に残ったということです。

また、その一方で、マルシアルの弟分みたいな感じであったラファエル・メンドーサのライブに行ったり、これまた昔からの友人で素晴らしい作曲家であるダヴィッド・アロのライブを聴き、そのあと家に遊びに行って、いろいろ新曲を聴かせてもらったりと、この先を踏み出していく出会いもありました。

「ぼくにとっても(マルシアルは)兄弟みたいなものだった......ただ、彼はどこまでもメキシコシティという巨大都市の錯綜と闇と大人の愛を歌い、ぼくは灼熱のベラクルスの熱帯の地獄とエロスと自由を歌っていた」
そう語るダヴィッドが、私のレコーダーにその場で録音してくれたいくつかの美しい歌は、港町ベラクルスの宿命である、スペインのアンダルシアの旋律や、さらにそれを遡るアラブの音階と、対岸のキューバのソンやダンソンのリズムが織り上げたタペストリのようで、これからゆっくりと私のレパートリーに入っていくことでしょう。

....私は踏みとどまっているわけにはいかないようです。
もちろん、マルシアルの歌も、私とともに生きているわけですし。

テーマ : 日々のつれづれ
ジャンル : 日記

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