キューバ・リブレ

米大統領、対キューバ渡航・送金など規制緩和発表
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-37473520090414?feedType=RSS&feedName=topNews&rpc=69

ええと、米国を「自由の国」だと本気で思っている人の多い日本ではあまり知られていなかったことですが、米国人は、キューバを自由に訪問することはできないのです。
今回でも、緩和されたのは「キューバに親族のいる人」。
つまり、いまだに「普通の米国人」は、普通の観光客としてキューバに行くと「犯罪」になるわけ。
これは単なる「渡航規制」ではなくて、違反すると最高20万ドルの罰金が科せられる重罪なのだ。

だから、マイケル・ムーアが「SICKO」を撮影したときも、「自分の意志ではなく、やむなくキューバに漂着してしまった」という(見え見えだけどね)演出をほどこしていたわけ。それでも、彼は映画のフィルムが、米国政府に没収されることを怖れて、公開までカナダに隠したわけだけれど。

とはいえ、ここに抜け道はあって、実際にはビジネスマンを中心に、年間20万人ともいわれる米国人がキューバに渡航しているといわれている。
どうやっているかというと、東海岸の米国人はジャマイカ経由で、モンテゴベイの空港で現地の旅行代理店からキューバの査証を受け取って、そのままジャマイカ航空に乗り換えてハバナに入るというやり方。(ジャマイカ航空は明らかにこれを当て込んで、米国本土から乗り継ぎの良い路線を開通させていて、ドル箱路線となっている)。
西海岸の人は、メキシコ経由。メキシコシティで、現地の代理店から以下同じ。これも、経済危機であえいでいるメキシコ旅行業界のちょっとした助け船となっている。

もちろんキューバは心得たもので、旅行者のパスポートには出入国のスタンプは押さないから、記録にも残らないというわけ。

では、なぜ、20万人のビジネスマンなのか。

もともとキューバはアメリカの開発したリゾートだった。それが革命で断絶したわけだ。
そしてその後、キューバは米国による敵対政策の中、ソ連との関係を強めた。その関係が変わったのが、90年代頭のソ連東欧圏崩壊だ。

冷戦に勝利したと確信した米国は、足許の邪魔者であったキューバの息の根を止めるべく、徹底的な経済制裁強化と、まんまパナマ侵攻時を思わせるような「キューバがじつは麻薬密輸の本拠地だった!」という激しいネガティブキャンペーンを繰り広げ、さらにキューバ国内に向けてのテロ活動が行われたわけ。
このめちゃくちゃで非人道的な経済制裁は、国連で、(米国の腰巾着国家であるイスラエルとパラオとコスタリカを除いて)圧倒的大多数で何度も非難決議をされているが、じつは今でも続いている。

このころ、ほんとによく聞かされたよなあ、見てきたような作り話。
たとえば、自称亡命キューバ人のA氏の語る「私は見た、ボリビアのサンタクルス空港からコカインを大量に積んだ飛行機がハバナ空港に毎日飛んでいた」とかいうやつ。
あの~、ボリビアのコカの産地は低地熱帯のサンタクルスじゃなくて高地地域なんですけど。で、当時親米反共軍事政権だったボリビアで、高地から大量のコカインを毎日トラックに積んで、ボリビア横断してたってか?
....みたいな。
あと笑ったのが、やはり自称亡命キューバ人の「家族が亡命したら、自分も激しい政治的弾圧を受けて、職場を追われ、病気の治療も配給も受けられず......」とかいうやつ。あのね。ふつうのキューバ人は、家族に一人ぐらい亡命者がいるのはぜんぜん珍しくないのよ。
まあ、でも、こういうのって、知らない人はホントにころりと騙されるのですよね。
.....あの人たち、今どこで何をしているのだろうなあ(しみじみ)

で、このとき、キューバは経済封鎖によく耐えた。徹底した配給制度による食料分配で一人の餓死者をも出さず、国民も驚くほど団結して頑張っていたものだ。

その一方で、この状況で激しくリアクションしたのが、メキシコだった。
メキシコはべつに左翼国家でもなんでもないのだけど、ここまで米国に我が物顔をされると放っておけない、という国民感情が湧き上がったのだ。
で、まず、メキシコで文化人を筆頭に「キューバを護ろう」大キャンペーンが起こった。
高名な画家たちが作品を、国営石油公社に提供するかわりに、石油タンカーをキューバに送る、なんてのもそのひとつ。
驚いたことに、このキャンペーンには、右翼紙といわれる新聞まで加わった。カストロ体制に賛成なわけではないが、中南米で、米国が正義面で好き勝手放題できると思ったら大間違いだ、という感じね。

ついで、EU諸国が動き出した。
まず、スペインとフランスね。この両国がこのタイミングでキューバ観光キャンペーンを始め、実際にキューバ政府と合弁で観光事業をいろいろ立ち上げたわけ。
ソ連影響下でサービスを失ったキューバ観光産業に、ヨーロッパのノウハウをつぎ込むことで、観光産業でキューバを復活させようというわけ。

これにあわてたのが、米国の財界人だった。
このままでは、キューバを潰すどころか、そのまえにおいしいところを全部ヨーロッパに持っていかれちまう、というわけね。そして、クリントンに圧力をかけた。
その矢先に起こったのが、エリアンちゃん事件である。

これは、母親・義父ら16人と共に6歳のエリアンちゃんがキューバからアメリカに行こうとして乗っていたボートが転覆して、母親と義父が死亡。一人残されたエリアンちゃんの養育権を求めて、マイアミ在住(反カストロ派)の大叔父とハバナにいる実父が争った事件。
これが当然、「エリアンちゃんの自由」云々というネタにされてしまったわけで、大騒ぎの国際問題となった。
そして、マイアミの反カストロ強硬派を押し切って、クリントン政権はエリアンちゃんの亡命を認めない(つまり、実父に返す)ことを決定。これをあくまで拒否する大叔父宅に強行突入までして、エリアンちゃんを奪回した。
これをカストロは、「革命後49年間、唯一、米国とキューバの休戦の日」とたたえる。
しかも、アメリカの世論は、圧倒的多数が、このクリントンの決定を支持したのだ。
つまり、風向きはキューバとの関係改善が求められていたのである。

しかし、クリントン後に政権についたのが、あのジョージ・ブッシュである。ブッシュは再び、キューバに対する圧力や挑発行為を繰り返し、関係改善は凍結する。
しかし、そのブッシュがイラク戦争の泥沼化と経済問題で失脚して、民主党オバマとなったのが、今の米国である。
米国の本音は、キューバとの関係改善である。
フィデル・カストロのあのタイミングでの引退も、明らかにこれを読んでのことだろう。

むろん、米国には未だに強硬な反共主義者は多いし、彼らに支援されたマイアミの反カストロキューバグループのロビー勢力も相当に強い。反カストロ運動自体が、反共資金を引き入れることのできる美味しい装置としての、ひとつの巨大な利権になっているのである。

その一方で、マイアミの亡命キューバ人も、59年の革命で逃げた第一世代(反共な人たち)は高齢化している。
で、その子供たちの世代は、必ずしもそれほど反共でもなかったりする。
日本に例えていうなら、戦後の農地改革で先祖伝来の田畑をどっさり取り上げられて恨み骨髄だったのが爺ちゃんだったとしても、息子の世代はあきらめてる、という感じ。

で、マイアミの連中の孫に至っては「いつまでも文句ばっかり言ってる爺ちゃんはみっともない、むしろ自分はバイリンガルでキューバに親戚もいることを生かして、キューバとまともなビジネスをしたい」という人だって出てきているのが現実なわけ。(まあ、そういう彼らでも、「ゲバラ映画」の感想を訊くと「うーん。子供の頃から、あいつらは極悪人って教えられてきたからなあ.......」と言葉を濁したりするんだけど)

中南米も、最後の反共の砦だったエルサルバドルで、左派政権が成立。新大統領就任後のキューバとの国交復活が宣言された。それを受けて、筋金入りの親米反共国家だったコスタリカもあわててキューバと国交回復。
南北アメリカ大陸で、キューバと断交している国は、最後のひとつとなった。

オバマが一気にいろいろなことをするのは無理だろう。しかし、キューバ関係に関しては、数年のうちに、段階的に関係は改善されていくだろうと思われる。
その後押しをするのが、経済危機であるというのが、なんなんだけど。

そのときが、本当に、ラムをコカコーラで割った「キューバ・リブレ」が、その名にふさわしいものとなる。

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キューバの原油を狙った?

今回の規制緩和は、経済制裁解除の第一ステップかも。米国のすぐ近く、キューバ西部に巨大な海底油田があって、すでにブラジル(掘削契約2008年10月)、ロシア(同2008年10月)、中国(同2008年11月)が今年から掘削を開始するとか。それで焦っているのでしょう。米国が自分の庭だと思っているカリブ海から、原油や天然ガスを持っていかれたら、鳶に油揚げをさらわれる思いでしょうし。

キューバが石油輸出国になれば、もはや経済制裁は無意味。段階的な制裁緩和の着手かもしれません。可採埋蔵量は800~900億バレルだと推定する説が有力で、ベネズエラと同等あるいはそれ以上かもしれません。

一昨年末にナオミ・キャンベルが、キューバの石油労働者向け住宅を訪問し、話題になりました。

http://ishizumi01.blog28.fc2.com/blog-entry-367.html
キューバの経済制裁解除へ(酒と蘊蓄の日々 2009/04/01 02:04:44)
http://ameblo.jp/wagnerian0849/entry-10235672315.html
キューバ石油大国化?(かみかわのブログ 2009-04-03 13:47:50)
http://www.bloomberg.co.jp/apps/news?pid=90003011&sid=aU92aEbWznzI&refer=jp_asia
キューバ:禁輸解除なら米企業の石油開発支援歓迎-基礎産業省顧問(Bloomberg.co.jp 2009/04/06 10:27)

http://www.afpbb.com/article/entertainment/fashion/2329671/2476637
ナオミ・キャンベル、キューバの石油労働者向け住宅を訪問(AFP BB News 2007年12月25日 20:53)

桁を間違えた?キューバ大使

ちょっとググってみたらすぐに見つかったキューバ大使のメッセージ、何と「9兆バレルの石油と2千百万兆立方フィートの天然ガスが埋蔵されている」と明記しています。えっ、きゅ、9兆バレル?

一桁違いの9000億バレルでも破格な数字ですから、これは900億バレルの間違いでしょう、たぶんね。二桁も間違えた、のかな? それでも、900億バレルは物凄い量です。

http://embacuba.cubaminrex.cu/Default.aspx?tabid=9772
「Embajada de Cuba en Japón > ホ-ム > ナショナルデー大使メッセージ」抜粋(2009年4月17日23時35分現在@embacuba.cubaminrex.cu)
「キューバは石油と天然ガスの消費量の半分を国内で産出しています。さらに、メキシコ湾の占有海域には、9兆バレルの石油と2千百万兆立方フィートの天然ガスが埋蔵されていることが確認されています。我が国政府は、日本の石油開発企業が、他の国々の企業がすでに行っているように、この資源の開発契約に参加して欲しいと望んでいます」
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