煮えたぎるチョコレート

雨で冷え込みます。
というので、夕暮れ、メキシコ風のチョコレートをいれることにしました。

要するに熱いココアなのですが、何年か前に日本でもヒットした小説&映画「赤い薔薇ソースの伝説」に出てくるチョコレート。

このロマンティックなタイトルは、じつは、いわゆる「邦題」というやつで、世界的なベストセラーになった原作と映画、どちらも、原題は「煮えたぎるチョコレートの湯のように」(Como el agua para chocolate)
これじゃ、日本じゃ誤解を招きますよね。きっとヒットしなかったでしょう。

で、そのチョコレート。

メキシコ原産のカカオを石臼で擂り潰し、シナモンやクローブやその他たくさんの香辛料を混ぜてできたチョコレートです。
メキシコでは工業製品がスーパーでも売っていますが、うちにあるのはインディヘナのおばあちゃんから買ったもの。コヨアカンの家の近くによく日曜日に売りに来てくれるのです。
一個が約2人前で、黒い円盤状。
鍋に少量の水を入れて沸騰させ、煮えたぎってきたら、円盤をスプーンでつついて溶かし、牛乳を入れます。そしてもう一度沸騰させる。
仕上げに好みでラムを入れたりすると大人の味です。

前述の小説の主人公は、メキシコの田舎の旧家に生まれ、おとなしい性格であるがゆえに、因習に縛られて生きていく。そのため、相思相愛である男性が、こともあろうに姉と結婚して、しかもそこに同居するという状況を受け入れてしまうのです。
その、女主人公の想いが、「煮えたぎるチョコレートの湯」というわけ。
一歩誤ると、昼ドラみたいな設定です。

とはいえ、いわゆる愛憎ドロドロ物語ではなく、そのこと自体が戯画的に、というより、魔術的リアリズムを込めて描かれ、また、主人公は自分の想いを料理を作ることで昇華させようとする、そのレシピが物語に別の色を与えてゆきます。ついでにメキシコ料理の奥深さもよくわかります。

その一方で、自分の意志を貫いて、革命家の男を追って家出した別の姉(次女)が、結局、その男に棄てられ、一時は兵士相手の娼婦にまで身を落としながら、やがて、自ら銃をとって戦う戦士となり、革命軍の連隊司令官にまで昇進し、かつての恋人を部下として、華やかに戻ってくる。
このエピソードは、メキシコ革命時代の有名なふたつの物語歌「ラ・クカラチャ」と「アデリータ」を下敷きにしたネタ。

「ラ・クカラチャ、ラ・クカラチャ...もう歩けない」
というこの曲は日本でも有名で、一時は小学校の教科書にも出ていましたが、このあと、ほんとは歌詞はこう続きます。
「....マリファナがきれたから」
これはまずいだろうよ、小学校の教科書に載せたら。

で、そのクカラチャ、ゴキブリのことですが、もちろんゴキブリをユーモラスに歌った曲ではなくて、今世紀初めのメキシコ革命の中で、革命軍の男達について歩いた娼婦たちのこと。ゴキブリのように何処にでも現れ、男たちの世話をして(食事の支度から下の世話まで)、革命を底辺で支えた貧しい女たちのたくましさを歌ったものです。従軍慰安婦とはずいぶん違いますのでご注意。

こういった女性たちから出て、自らも銃を取った人が実際にいたかどうかははっきりとは記録に残っていませんが、「アデリータ」は、男に混じって勇敢に戦った女性たちのシンボルです。「大尉ですら一目置いていた」勇敢なアデリータはこう歌われます。

「もしもアデリータが俺の恋人になってくれたら、妻になってくれたら
絹のドレスを買ってあげて、兵営に踊りに連れていこう
もしもアデリータが他の男とどこかに行ったら、
地の果て、海の果てまでも追いかけていこう」


これ、日本人の発想ではないですね。メキシコ人て、強い女が好きなのねぇ~!
そんなわけで、「赤い薔薇ソースの伝説」も、最後は、強い女が好きなメキシコ人らしい結末になります。
私は、熱いココアにラムをたらして、ゆっくり。


今日の晩飯は、手羽先のピリ辛揚げ・ゆり根の卵とじ・茸の味噌汁・水菜とトマトのサラダ(予定)


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