「チェ 28歳の革命」

じつは「チェ 28歳の革命」試写会に行ってきた。
で、正直に言って、かなり驚いた。

以前ガエル・ガルシア・ベルナル主演で公開された「モーターサイクル・ダイアリーズ」も、ハリウッド制作映画なのでもしや、という悪い予感を良い意味で裏切った映画だったのだけれど、これはそれ以上に気合いが入っていて、真面目なんである。

主演のベニチオ・デル・トロは、プロデューサーも兼任しているのだが、主演者が、アカデミー賞欲しさ見え見えでプロデューサーも兼任して、歴史上の人物を演じたような某超駄作映画とは、根本的に、というか比較するのも失礼なぐらい、真面目に地味に作っているのである。

後にゲバラの妻になるアレイダ・マルチ役として、サルマ・ハエックが流し目で現れて、危機一発の爆撃シーンでお約束のようにきれいなおっぱいを出したりするようなこともなければ、音痴のはずのゲバラがタンゴのリズムで情熱的にわけもなく踊り始めたりするようなこともない。
ましてや、ワイヤーアクションの超人的な戦闘シーンみたいなものもない。
なにより、米国映画であるにもかかわらず、主要登場人物の大半が「サヨク」....いや、はっきり「共産主義者」であるという「すごく都合の悪い真実」をかわしたりもしてない。

そういう意味では、エンタテインメイト性も皆無に近いので、そういうのをちょっとでも期待した人はたぶん思いきり失望するだろう。
過去と現在と未来が細かくクロスカッティングするので、ゲバラの生涯やキューバ革命とその後の現代史(キューバ危機やマッカーシーのアカ狩りなど)についての知識がなければ、まったく理解できないシーンも少なくない。
話題の映画らしいから、というだけの理由で見た人の大半は置いてきぼりにされて、「わけわかんない~」だの「単館上映系インディーズみたい」だのと罵倒するだろう。

こんなの米国映画で作っちゃっていいのか? きみら、ほんとに勇気あるね。大丈夫かい?

というぐらい、よく勉強していて、気合いが入っているのである。
ゲバラをありきたりにスーパーマンみたいな英雄として描くわけではなく、また、一方、ありきたりに「人間味」を描くわけではなく、知らずに見たら、ドキュメンタリーかと思うぐらい、リアリズムに徹している。
ゲバラとカストロは、青春ドラマのように感動的に出会って意気投合したりするのではなく、淡々とホセ・マルティを語っちゃったりなんかするのである。
セリフはもちろん、英語ではなく、「どキューバ弁」。

なにより、いいのかいと思ってしまったのは、そして感心したのは、話題になっている「ゲバラの再現」よりも、むしろ「カストロの描写」。あのデカさはもちろん、ちょっとカン高いトーンの神経質そうな喋り方、革命戦のまっただ中にあっての外交戦略家ぶり、皆の信望を集めるのが当然であるだけの采配の鋭さ。
そのへん、見事である。ゲバラは偉大だとしても、やはり、傑出した政治家であるカストロあっての革命の成功であり、その後のキューバの国家としての存続、であるということまで、そして、革命を起こしたキューバへの米国のみならず、米国影響下どっぷりの他の中南米諸国からの嫌がらせに至るまで、さらりと描いてしまっているのだ。ホントに君ら、大丈夫か?

(ベニチオ・デル・トロが、カンヌ映画祭でこの役で主演男優賞を取ったというのは、この「ホントに、君、大丈夫か?」という当然の懸念に対しての「フランス人の」バックアップなのだろう)

難をあげるとすれば、ここまで身を捨てて頑張っているベニチオ・デル・トロがどうしても長めの顔なんで、ゲバラの顔が間延びして見えて仕方がないということ。
登場人物が全員キューバ弁喋るのは、それはいいんだけど、アルゼンチン人のゲバラまでが、最初からキューバ弁喋っちゃ駄目だろうよ、ということ。(彼は、いつまでもアルゼンチン弁が抜けなかったので、「チェ」というあだ名をつけられたんだよ)
そして、よく練られた脚本では、「アメリカ」という言葉と「米国」という言葉を明確に、かつ、意図的に使い分けられているにもかかわらず、日本語字幕の翻訳家にそれが理解できていなかったため、何カ所かで、かなりイタい誤訳があるということ。

しかし、それでもあなたは見るべきだ。
ガエル・ガルシア=ベルナルという美青年が、ゲバラのはまり役という最大級の賛辞を受けた後に、それでも、この役を演じるために25キロ痩せたというベニチオ・デル・トロの猛勉強ぶりと、最後に流れるあの歌を聴くために。

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