黒い宝石....黒い涙

さて、チャベスに真っ先に当選おめでとうの電話をしたのは、アルゼンチンのキルチネル大統領。次いで、エクアドルのコレア新大統領。そして次々と中南米の首脳たち。

日本の報道では、「反対票が4割あることは、チャベス政権に根強い不満があることを」などと報じているが、実際はかなり様相が違う。
いまでも、ベネズエラのメディアは圧倒的に富裕層のものなのだ。
つまり、在任期間中はともかく、選挙期間中も、ベネズエラで垂れ流されていたのは「反チャベス報道」であって、チャベスがまた勝てば政情不安になるという煽りであり、あげくに国軍に蜂起まで唆していたのだ。
ついでにいうと、対立候補マヌエル・ロサーレスは反チャベス統一候補であり、このベネズエラの富裕層と米国が総力を挙げて応援していた。それで、4割とれなかったのだ。
チャベスの圧勝以外のなにものでもない。

いみじくも、ジョージ・ブッシュが無邪気に暴露してしまったように、「民主主義があれば」いまの南米では左翼が勝ってしまうのである。
それは、日本より30年早く、70年代後半から「新自由主義」政策をとった結果であるとみてよいだろう。

新自由主義はとりあえず経済を回復させるカンフル剤だが、これは危険な対処療法的な薬なのであって、一時的に症状を和らげるが、長い目で見たときに、本体を弱らせてしまうのだ。
一方、社会インフラの着実な整備や、医療・教育の向上は、成果が出るまでに10年以上かかる。

まあ、そんなことは前から何度も言っているが、これで駒は揃ってきた。
南米第一の石油産出国であり、米国にも大量の石油を供給しているベネズエラは、引き続きチャベスの元にある。

そして、石油価格は高騰している。
これはじつは二重の意味で、チャベスの後押しとなるだろう。

つまり、一つめには、単純に石油価格の上昇による収益増。
二つめは、石油価格が高騰すれば、超重質油(ヘビーオイル)といわれる、タール状の低質の重油を精製しても採算が取れるということになることだ。具体的には、これは1バレル50ドル。現況価格は62~3ドルだから、十分そのラインに達している。
そして、ベネズエラには、この超重質油(ヘビーオイル)がどっさりある。というより、世界の超重質油の90%はベネズエラにあるといわれていて、これは、いわゆる石油埋蔵量にはカウントされていない。

それはどういうことか。
つまり....チャベスがこの超重質油の精製を始めることができれば、ベネズエラの埋蔵石油量は飛躍的に増大し、イランもイラクもサウジアラビアさえも抜き去る、世界最大の石油産出国となるということだ。
(※(財)国際開発センター(IDCJ)資料による)

そういうことも踏まえたうえで、ベネズエラとイランは、相互の石油協力(イランは、この超重質油の開発に投資している)だけではなく、今年9月「世界のその他地域での沖合い及び陸上の石油・ガス事業に共同で従事するとの契約に調印している。

そして金のあるところに金は集まる。

すでに、就任前から、エクアドルのコレア新大統領は、エクアドルの石油の精製をベネズエラで行うことで合意したことを発表している。すてきな手土産だ。
目下の原油高がラファエル・コレア新大統領の強力な味方となることは言わずもがな。エクアドルは、ベネズエラ、(ここから大きな差はつくが)メキシコ、ブラジルに次いで、中南米第4位の確認可採埋蔵量を持つのだ。

さらに、ボリビアの地下に眠る南米第2位の天然ガスの開発。
パナマ運河拡張計画というのもある。
キューバは天然資源はないが、世界でも指折りの水準を持つ医師(プラス医薬品)と各方面の技術者や専門家を各地に送り込み、また、それに相応する支払を受けることができる。
この関係は、単にイデオロギー的に応援するしないの問題だけではなく、きわめて現実的なのだ。

さらに言う。メキシコとアルゼンチンは、現在産油国だが、いまの状態で採掘が進めば、可採年数はあと10年そこそこしかない。
はっきり言うと、さらなる地下資源が新規に発見され、またそれを開発することができない限り、石油輸入国に転落してしまうのだ。コロンビアにいたっては、あと7年しか保たない。

反コレア発言をしたペルーの大臣が即座に謝罪したのも、そういう事実も踏まえ、「石油のあるやつに逆らうと怖い」ことを知っているからだ。

さらに石油に関して言えば、アメリカの石油も、現在の確認埋蔵量だけでは、あと10年ほどで掘り尽くされる。
そこにアメリカのもっとも忠実な犬だったベネズエラが歯を剥き、しかも、このチャベス潰しのための、暗殺から暴動教唆からクーデター画策にいたるありとあらゆる「CIA的」戦略は失敗した。

そうなると、イラク侵攻の理由づけはともかく、ブッシュのやったことは、彼なりには「国益のために」やったことなのだということも明らかであることはわかるだろう。

そして、メキシコ。
あまり知られていないが、メキシコは米国の石油輸入量の1/6程度を供給している。これはサウジアラビアより多い。
先日の大統領選で、アメリカがいかなる手を使ってでも、メキシコを左翼政権にしたくなかった理由はここにあるし、メキシコの「知識人層」がそれに対して、「あきらめムード」であった理由も同じ。

ところで、ここに妙な統計がある。
1998年の資料では、メキシコの確認可採埋蔵量は40年を超えているのに、2004年資料では10年に激減しているということだ。

一般的には、技術の革新や新しい油田の発見などにより、確認可採埋蔵量というのは、少し増える(年数経過を引いた数より)ものなのに、だ。メキシコに何があったのか。

じつは、メキシコが現在生産している石油のうち大半を占めるカンタレル油田があと10年の命なのだ。すでに、今年から年8.4%減ってゆく。だから、早急に別の油田を開発していかないとならないわけで、メキシコ湾には293億バレルの推定埋蔵量はまだあるわけだが、問題はその開発が進んでいないし、いうまでもなく開発にはかなりの金がかかるということだ。
なんでこんなになるまで放っておいたかと言えば、それは、ひとえにPRIとPANの無策だった。石油の売上げを国家収入として遣い続けてきたのである。

この状況下で、カルデロンは外資を導入しない限り、次の開発はできないのだから、当然そうするだろう。
となれば、どうなってくるかは火を見るより明らかなわけ。
見越したわけではなかろうが、カルデロン内閣の新内務大臣フランシスコ・ラミレスは前ハリスコ州知事で、デモを武力で弾圧するのは言うまでもなく、不当逮捕、拷問などの件でアムネスティや人権団体から告発多数を受けている悪名高い極右。
http://es.wikipedia.org/wiki/Francisco_Javier_Ram%C3%ADrez_Acu%C3%B1a (スペイン語)

いずれにしても、これからの政情が安定するとは思いにくい。なんたって、この国の国家財政の1/3は石油依存なのだしね。

イデオロギーは別として、メキシコはベネズエラと組んだ方が国益になっただろうに。
2016年。ボリビアやエクアドルが、メキシコよりはるかに豊かな国になっている可能性は高い。
いや、その前にメキシコ国民の反発があるか。

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