チェ・ゲバラに捧げられた歌・2

さて、チェの故国ではどうか。

実をいうと、アルゼンチンやウルグアイは長らく軍事政権が続いたこともあって、ゲバラの名はずっと禁句同然だった。なんたって、2万人が「行方不明」にされたっていう反共政権だったんである。

どれぐらいこいつが強力だったかというと、軍事政権もとっくに終わった1992年に私がロサリオを訪れたとき、ゲバラの生家を訪ねようとしたら、地元の人が誰も知らなかったんである。
ていうか、誰も知らないといって教えてくれないんである。

で、あきらめて帰りかけたら、ずっと様子をうかがっていたタクシーの運ちゃんが、教えてくれた。
運ちゃん曰く、

1.軍政時代はゲバラなんて禁句だったし、サヨクとみなされると「お迎え」が来るから、一切話題にできなかった。なので、もともと興味なかった人や若い人はホントに知らない。

2.もしも知っている人がいるとしても、ただ、いまの民政を誰もまだ心から信用していないから、また、クーデターかなんかで政権が転覆したときに、自分がゲバラの家を知っているなんてことを、あとで密告されるといやなので、知られたくない。

「で、オッちゃん、知ってるの?」
「いや、知らん。けど、街の案内ならできるから、乗る?」
で、乗ったら、ある家の前を通り過ぎて、意味ありげに目配せしてくれた。そこだった。

(いまは、アルゼンチン人も、もう軍政逆戻りはないと踏んだみたいで、博物館になっているらしいです)

実際、アルゼンチンの政治対立は相当にややこしいものがあって、ペロン時代はフォルクローレやタンゴが奨励されたけれど、共産党員はラジオにもテレビにも出られない、とかまあいろいろあったようです。
そういう事情ですから、面だってのゲバラ讃歌ってのはないのですね。

そのなかで目立つのは、ウルグアイのアニバル・サンパーヨの作ったHasta la Victoria「勝利の時まで」。

私はラモン。
鎖を断ち切るあの男
火を燃え上がらせる
信念の張り詰めた刃

...ラモンというのは、ボリビアでのチェの変名なのはいうまでもありません。

この作曲家のアニバル・サンパーヨは、ウルグアイの民謡の歌い手で、日本のフォルクローレファンの間では有名なアルゼンチンのコスキン・フェスティバルの創始者なんですが、1972年にウルグアイの都市ゲリラ、トゥパマロスを支持していた容疑で逮捕され、なんと1980年まで拘禁されています。(このあと、スウェーデンに亡命)

そのなかで出色なのは、アルゼンチンのハムレット・リマ=キンターナの作った「死なないためのサンバ(Zamba para no morir)」。


午後に私の声は砕かれる
昨日の残響までも
私は最後までただ一人残る
渇きに苦しみ、歩みにも疲れ
それでも太陽のもと私は成長を続け
生きている

中略

私は儀礼的な死になど怯えない
ただ眠るのみ、自らが消えゆくのを見るのみ
歴史が私を記憶するだろう
生きている姿を

これは、チェに捧げた曲として、ハムレット自身がチェに届けたと言われています。
そしてチェもとても気に入っていたらしいと。

とはいえ、このことはご時世がご時世だったので、アルゼンチンでは内緒にされていて、一方で、新人歌手のテスト用によく使われたらしいです。
実際、この歌は、広い音域・とりにくい音程・滑舌の難しい詞という三拍子が揃った曲なので、テストに向いていますが、おそらくこの歌詞を読んで、「なんか気がつくかどうか」ってのもミソであったかもしれません。
とはいえわかりやすいわけではないので、いろいろな人にカバーされて、とても有名な曲ではあるのですが、アルゼンチンでは未だに、この曲が、本当はゲバラに捧げられた曲であることを知らない人がいっぱいいます。

一方で、ボリビアではこの曲は、まんま「チェのサンバ」として伝わっているそうで。
あのゲリラ部隊の中で、この曲を歌っていた人がいたらしいという信憑性のある話と共に伝承されています。

ちなみに、ボリビアのゲリラ軍が壊滅したあと、キューバ人はともかく、共に戦ったボリビア人ゲリラの遺族はどうなったと思われますか?

じつは彼らは、その後、カストロがキューバに引き取っていたのです。
私はココ・ペレードの奥様や息子さんにお会いしたことがありました。ほかにも、チェと一緒にビリビアに散ったキューバ人戦士のご遺族にも。
あの歴史が、日常の中にふつうに存在しているキューバ、に私は驚いたものでした。

(続くかも)

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