撤退するということ

私は20代の頃から30代にかけて、かなり旅をした。
あのころ、不可能と思われていたキューバの個人旅行による横断もやったし、中米の縦断もやった。
まあ、それなりに危険な目にも遭ったことがある。

というと、「勇気がありますね」とかよく言われるし、私が向こう見ずで大胆不敵で勇猛果敢な人間だと思っている人もいたりする。

でも、それははっきりいってだいぶ違う。
私がいま生きているのも、元気なのも、私が向こう見ずで大胆だからではなく、むしろ臆病で慎重だからだ。
というか、そのときはさほどそう思わなかったが、いまとてもそう思う。

日本の旅行代理店の支店があるとか、クレジットカードの海外オフィスがあるようなところは、あんまりその必要はないけれど、そうでないなら、どこに行くにしても、情報収集なんてのは基本中の基本である。
それはどこでも簡単に手に入るものでちょっと調べて、というものではない。というか、そのレベルのものは、私は情報収集とは呼ばない。

当時はインターネットはなかったから、「どこでも簡単に手に入るものでちょっと調べて」といっても、家でのパソコンでの簡単検索よりははるかに手間がかかった。
もちろん、「地球の歩き方」もなかった。

だから、少なくとも、図書館に行って目的地に関する関連図書(旅行記の類よりはむしろ、宗教や政治経済など)を入手して、理解できるできないにかかわらず読むのは手始め。つてをたどって、現地を知っている人に話が聞けるなら聞きに行く。実際に頼るかどうかは別として、現地の人を紹介してもらえるならば紹介してもらう。
これが手はじめ。(全部ではない)

政情不安な国に行く場合は、(というか、中南米の場合たいていそうなのだが)、もっと徹底的にやる。ゲリラや主要な政治家のことまで調べ上げてから行く。
政情不安な国であればあるだけ、たとえば現地の人も「どの社会階層に属していて、誰を支持しているのか」によって、実際にその国がどのような状態なのかについての発言内容がまったく変わってくるからだ。政情不安定な国の場合、たまたま知り合った人が、極右だったり極左であったりすることはけっこうありうるわけで、自分でそれを理解できてつきあえなければ、命取りにもなりかねない。

どこかにいくときは、常に複数のルートは確保する。
あるルートでいけないとわかったら、すぐに別ルートに切り替えることができるようにだ。
現地でも情報収集は怠りなく、やばいと思ったら、すぐに引き返す。
現地の人が危険というようなところには、のこのこ行かない。
行く場合は、ボディガード付きで行くか、その危険地帯に顔の効く人を紹介してもらったうえで行く。(最後のが一番安全)まあ、最終的には自分がそこで顔が利くようになっちゃえば、かなり安心なんだけど。(大爆)

日本人で女、というのはかなり目立つから、基本的には自分のことを「ネギをしょったカモ」なのだと考えているわけ。
だから、金がないぶん、手間暇は惜しまない。

それでも、一度や二度(ではきかないか....)は「かなりやばい」目に遭ったことはあるし、「ありゃあ、まいったなあ」はけっこう頻繁......というのが、発展途上国と言われるところを旅をするということ。

もちろん、いま私がいるのは、それらを切り抜けてこられたからなのだが、切り抜けてこられたのも、その前の下調べや「別ルート」をあらかじめ調べ抜いてきたうえで、選ぶにせよ選ばないにせよ撤退するにせよ、その場で判断する、という部分は大きいと思う。

とくになにも考えず、とくになにも準備もせず、それでいて、いきなり奇跡的な解決策が頭にひらめき、またそれがうまくいくというのは、小説や映画では面白いと思うし、実際にもあり得ないとは言わないが、私は自分がそんな天才だと思わないし、また、命を掛けてまでそんなに確率の低いギャンブルはやらない。

特にもっとも大事なのは、撤退する勇気だと思っている。

自分が行きたいと思っているところ、やりたいと思っていること。達成したいと思っていること。
それを目前にして引き返すというのは、かなり葛藤がある。
たぶん「あえてやめる」ほうが、「しゃにむに突き進む」よりはるかに決断力と勇気が要る。
ひとつの目的から撤退することは、自分のやってきたことの否定ではない、ということを自分に言い聞かせるのは、端から思うより、たぶんずっと難しい。

あとで知ったが、戦争においても、本当に優秀な司令官というのは、撤退のうまい司令官なのだそうだ。
それは自分でよくわかる。
無傷(またはすりむき傷程度)で撤退してくると、「なにもやめなくても」「大したことじゃなかったんじゃないの」なんて言われることもあるけど、外野席が自分の人生に責任を取ってくれるわけではない。ぼろぼろになってたくさんのものを失い、どうやっても物理的に続けられない状態になって撤退というのは、たいていの場合、もう遅いわけで。(まあ、それでも自分が生きてるだけましという考え方もあるけど)

撤退すると言うにはふたつの理由があって、ひとつは、たんに、実際やってみたら、自分の事前調査や状況判断に問題があった場合。
これは自分で自分のミスをすみやかに認めるということ。
もうひとつは、そうではなくても不可抗力の場合。事前調査にもかかわらず不測の事態が起こることはいくらでも世の中にある。
それはそれで、運が悪いとしか言いようがないのだけど、これも世の中にはそういうことがあるとして、それも選択肢に加えておくしかない。

逆に言えば、撤退のできない人というのは、他人の忠告は聞かないし(ヨイショしてくれる意見だけは求めようとしたりするけど)、そもそも下調べもあまりやらない。自分の運(というより、まわりのお膳立てだったりすることもあるわけだけど)だけを信じている。そして、多大な被害を出しても、撤退の決断ができない。
これは旅行に限らず、たぶん企業経営でも同じなのだろうけど。

私が失言大臣などに厳しいのは、なにも些末な揚げ足取りをしているのではなく、また、失言の一部を大々的に報道するマスコミに迎合しているわけでもなくて、その政権が、閣僚の失言というトラブルにどう対処するかを見ているからだ。
ああ、こいつらは撤退のできないやつだなと思うと、かなり注意するようにしている。

旅の場合は、集団行動でない限り、他人までも被害の巻き添えにすることはあまりないけれど、実際の政治や戦争というのは、国民が巻き込まれてしまうので、ね。

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

PANDORA

Author:PANDORA
ラテンアメリカと日本を拠点に活動する音楽家・作家 八木啓代のBlog
公式サイト http://nobuyoyagi.com

★CD情報
新作CD”Lagrimas”試聴やご購入はこちらから

★新刊情報
刑事司法への問い (シリーズ 刑事司法を考える 第0巻) (岩波書店)
日本の刑事司法の何が問題か、どのような改革が求められているか。刑事法研究者、実務法曹の他、八木も執筆しております。
禁じられた歌ービクトル・ハラはなぜ死んだか(Kindle版)
長らく絶版状態だった書籍をリクエストにより電子書籍で再版いたしました。八木啓代の原点です。
検察崩壊 失われた正義(毎日新聞社)
5刷。この一冊が検察にトドメを刺すことになるかもしれません
リアルタイムメディアが動かす社会(東京書籍)
超濃ゆいメンバーによる講義録!
ラテンに学ぶ幸せな生き方(講談社)
なぜラテン人は自殺しないの?に応えて3刷!好評発売中!
キューバ音楽(青土社)
ラテン音楽ファン必読!キューバ音楽のすべてが理論も歴史もわかります。浜田滋郎氏激賞
貧乏だけど贅沢(文春文庫)
沢木耕太郎氏との対談収録
ハシズム!(第三書館)
共著で橋下大阪市長を解剖します。

★ライブ情報
11月29日(水) 六本木・Nochero
Vo. 八木啓代 G. 福島久雄

ライブ&講演詳細はこちら



nobuyoyagiをフォローしましょう

カレンダー
09 | 2017/10 | 11
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -
最新記事
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

カテゴリ
検索フォーム
最新コメント
リンク
QRコード
QRコード
RSSリンクの表示
月別アーカイブ
最新トラックバック
  1. 無料アクセス解析