黒い女神


黒い女神....といっても、メキシコの話じゃなくて。

ギリシア神話に出てくる知恵の女神アテネの肌が黒かったのではないかという仮説である。
といっても、トンデモ系の話でなくて、いま欧米の古代ギリシア史関連の学会で大論争を起こしているテーマとなっている。
ロンドン出身でアメリカの大学で教鞭をとっていたマーティン・バナールが、歴史学・社会学的見地から古代ギリシア史を再構築し、私たちの考えていた古代ギリシア世界が、19世紀近代ヨーロッパのヨーロッパ中心主義による「捏造」であると看破したもの。
事実、19世紀以前の文献(古代ギリシアのヘロドトスから中世~ルネサンス期を通じて)では、エジプトとフェニキアが古代ギリシアの母であると当然のように語られている。
すなわち、ギリシアはエジプトの植民地としてエジプト文化の薫陶を受けることによってはじまり、ギリシア神話の神々もエジプトの神々にその起源を持ち、ギリシア神話でおなじみの「登場人物たち」....つまり私たちがなんとなく白人だと思っている英雄たちもまた、神話を丹念に読んでいくと、フェニキア出身であったり、エジプトから来た人たちだったりするということだ。

それが、帝国主義の時代の中で、ヨーロッパ文明の母であるギリシア文化がアフリカの影響によって生み出されたということを否定したい人たちによって、巧妙に史実はすり替えられてきたと。
とても興味深い本である。

「ブラック・アテナ 古代ギリシア文明のアフロ・アジア的ルーツ、マーティン・バナール、新評論」

ただしちょっとお高いので、興味のある方は、図書館にリクエストするのが良いと思うよ。というか、図書館には備えておくべき一冊だと思う。
いわゆる学術書なので、さらっと読むには不適。ちなみに、この著書のガードナー、もともとの専門は中国史で、さらに母方の祖父は著名なエジプト学者。ということで、古代ギリシア語と古代エジプト語にも精通しているから、それもすごい。

話変わるが、古代ギリシアから年を経て、紀元前のエルサレム。
アラム語を話していたイエス・キリストも聖母マリアも、ともにセム系の民族であり、当然浅黒い肌をしていた。
現在のキリスト教会の聖画に出てくるような「白人」ではありえないことは考えてみれば明らかな話で、考古学者による復顔だとこの通り。
http://www.popularmechanics.com/science/research/1282186.html

この古代ギリシアの神々がエジプト文化の借用であったというバナール説も、日本人から見れば、(ましてやヘロドトスの文献などを丹念に説明されると)、わりと素直になるほどね、と頷ける話だが、それが、欧米でヒステリックなまでの論争になっていること自体が、白人優位主義というものの根深さともかかわってくるのだろう。

ちょっと話はずれるが、一時、話題になった(というか周期的に話題になる)トンデモ系のネタで、中南米の古代文明には宇宙人がかかわっているナンタラ系の説というのも、そもそもの根底は、「白人(インド=ヨーロッパ語族系)文化の影響を受けていないにもかかわらず、非常に高度な文化や文明を作り上げることができるという事実をあまり信じたくない」という感覚が抜きがたくあるのも、要チェック。

もっとも、日本文化だって、中国・高麗の薫陶を受けて育ってきたものだ。
飛鳥時代には中国や韓国の人々こそが文化をもたらす人々だったわけだが、いつの間にやらそれを否定しないまでも、矮小化したがる人たちがおり、それどころか、そういう恩義ある国々に対して、日本が戦時中にやった愚かな所行を「なかったことに」したいという人々が、アメリカで新聞広告まで挙げて国辱をサラしてくれたものだったが(見事に逆効果になりましたがね)、「信じたいものを信じる」というのは、真実を見つめる勇気のない人々の得意技なのだろうか。

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