7月のキューバ男たち・5


そして、メインの30日。
3人のヌエバ・トローバ第一世代の親父たちを中心に、トローバ150年の歴史を2時間に濃縮しつつ、トローバの真髄を伝えるという世界初、大胆不敵な試みである。

なんたって、世界初演なのだ。
これから何が起こるかわかっていたのは、出演者と八木だけだった。

きちんとした資料もプロモーションビデオもないのに、「ぜったいおもしろいから」という八木の舌先三寸だけを信じて、この企画に乗ってくださった東京の夏音楽祭のスタッフのみなさんの勇気と度胸は賛辞に値する。ほんとにありがとう。

そして、何が起こるかわかっていた出演者たちも、24日の成功で気は楽になっていたとはいえ、やはり、言葉の通じない日本の観客に何処までわかってもらえるかという不安はなかったと言えば嘘になる。

実際、「トローバは歌詞が命なのに、外国でわかってもらえるかどうかは疑問」という批判もないではなかった。ばかだね、世界中のロック少年が英語がぺらぺらだとでも思っているのだろうか。
トローバの歌詞が重要なのは確かだ。しかし、何よりトローバはスペイン語の生んだ美しい歌なのだ。スペイン語とはこんなにも美しい響きのものなのかと思えるほどに。そして、そのメロディと絡み合う言葉の響きの純粋な美しさは、ある意味では、言葉のわからない外国人の方が理解できる場合だってあるのである。
だって、たとえばドイツ公演するからといって、ドイツ語で歌う「ロンヒーナ」なんて、許せないでしょ。
以前、シルビオ・ロドリゲスは、自分の曲を勝手にドイツ語訳にしてレコーディングした歌手を訴えたそうだが、言葉というものを真摯に考えれば、わからないではない。訳せば、すでに、音楽としては「別のもの」なのだ。

なーんちゃって。成功したからなんとでも言えるのだけどね。(爆)

それにしても、この日も出ました。当日になって、
「なーなー、昨日のコーラス良かったから、今日はこれも歌おうよ、はい歌詞カード」

(-_-;)

とはいえ、その曲。アウグスト・ブランカの代表曲である「贈り物」。

これはアウグストがはじめて外国に旅立つことになったとき(生きて帰ってこられないかもしれないと本気で思ったのだそうだ)、当時恋人だった夫人に捧げた曲である。
「風に捧げる歌がほしい、いつも君が歌ってくれるように/君の耳に残り、眠っているときですら聴いていられるような。あなたが悲しいときに、嬉しいときに歌がほしい、僕がいなくても、君に寄り添っていてくれるように」
という、それはもうロマンティックな歌だ。
男声が歌うと、女性に愛を捧げる歌であり、女声で歌えば、捧げられた女性が男を想いながら捧げられた曲を歌う、という趣向。

で、今思いついたヴァージョンは、男が歌い、それから女が同じメロディを繰り返し、後ろで男がハモる、という構成ね。おお、これは美しいぞ。

「だろ? だろ?」

うん美しい。ただ、そういう解釈なら、女声はあまり「私は歌うまいぞぉ」って感じで感動的に歌い上げちゃ駄目なのね。この場合。ヘタウマまでいかないにしても、やや素人くさい感じぐらいのほうがいいかな。

てなわけで、これまたリハ一回で本番です。音響の方ご迷惑をおかけしました。

まあ、それにしても、和気藹々としたトローバ、良かったっすね。いい意味での寄せ集め。
3人のおじさんたちはさすがに個性豊か、キャラが濃くて良かったですが、第二世代のペペ・オルダースも良かったです。この人の作品は、ボディブローのように、あとになって、じわじわ頭に残ってきます。
しかし写真見ると、トロバドールというよりは、休憩中のゲリラ兵みたいですが。

磨き上げたクラシックとはまったく違う意味での、もっと素朴な人間の声の美しさ、声の生むハーモニーの美しさ、言葉の響きの美しさ、言葉の生むメロディの美しさ。言葉の持つエネルギー。

バベルという映画のメッセージは、文化が違うことで伝わらないもどかしさ。言葉がわかっても伝わらないもどかしさ。
このステージはその逆です。文化が違っても伝わるなにか、言葉などわからなくても伝わるなにか。

歌っている彼らも、滅多にないほど気持ちの良い楽しいステージだったとか。
ああ。そして、割れるような拍手が私たちに答えてくれたのでした。
(写真:ペペ・オルダース by 岡部好)

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