SICKO

数日前の話になるが、試写会でSICKOを見た。例のマイケル・ムーアのあれである。もう地下鉄にも宣伝ポスターが貼られている。

で、すでに内容についてあちこちで書かれているので、うすうすご存じの方も多いと思うけれど、これを見ると、アメリカ合州国に住みたくなくなるのが請け合い、てな映画。

まず、かの国5000万人近くに及ぶ無保険者。
すべて医療は自費診療となり、その医療費も信じられないほど馬鹿げて高額なため少々の病気は我慢、怪我をしたら麻酔なしで自分で縫う(まじ)、指を切断したら、どの指をつけるのが一番安く上がるか、費用対効果を考えて選ばなくてはならない。これだけで、かなりブラックである。
そして、しかしながら、今回はそれがテーマではないとマイケル・ムーアは語る。

問題は、保険に入っているにもかかわらず、満足な医療を受けられない人たち。
そして、少しずつ暴かれていく、「保険料をきちんと支払ってきた人たちに対して、その彼らの万一の時に、いかに保険会社が金を出し惜しみし、あるいは出さないですませるか、そのあらゆる手口と実例」が語られていくのである。
ほとんどそれは、シュールですらある。
なぜ、こんな非人道的でめちゃめちゃな制度が作られ、しかも維持されてきたのか、そこにもムーアは突っ込んでゆく。そして、それにひきかえ、皆保険制が施行されているカナダやイギリスやフランスの例が引き合いに出される。

むろん、この映画は、莫大な利権に対して喧嘩を売ったわけだから、(当然というか早速というか)反論がたっぷり用意されている。明らかに米系保険会社の雇った広告代理店や、そこで一儲けしようとする人たちが蠢くのは当然として、はるか日本にも、これは保険会社に雇われたというより、もう骨の髄まで「プロ奴隷」なんだろうなという人たちがいて、利権がらみの反論を得意になって翻訳して吹聴したりしている。

いわく、カナダの医療では待ち時間が長いことを映画では語っていないだの、医療保険支出のせいでイギリスの財政が破綻しかけているとか、フランスの高額の税金について言及していないとか。

で、保険会社陣営が、たぶん(マイケル・ムーアの映画製作費以上に)すごくお金をつぎ込んでいるであろうわりに、
で? だから? それがなに?
保険制度があるから、病院が混んでいることぐらい日本人は誰だってわかっている。
しかしああたね、いくら待たされるのが嫌だからっていっても、全額自費診療でしかも馬鹿高いから、病院はガラガラですよって言われてもねえ。
だいたい、アメリカなんて、医療保険もないくせに財政破綻してるじゃん。
イギリスにしたって、財政破綻の原因はべつに医療保険のせいじゃないよ。
としか言いようのない、説得力の薄い反論しかできないところが、この問題の致命的な部分だ。

実際に私が直接聞いたことのある、友人のアメリカでの実話。
ある日、夫人が急に苦しみだした。それも冷や汗を流すような苦しみ方である。
すぐにその友人は車に夫人を乗せて、病院に駆けつけた。
病院の真ん前に車を駐車できなかったのと、とりあえず夫人はよろよろとなら歩ける状態だったので、病院の前で降ろし、夫は駐車場に車を入れて戻ってきた。
その間の話である。
夫人は苦しみながら、車から病院の入り口までの数メートルを歩いて、病院の建物内に入った。
そこで、「支払が証明できるものを出さないと診療はできない」と言われたのだそうだ。冷や汗を流して苦しんでいる人間にである。もちろん、だからといって、他の病院に搬送手続きをするとかいうわけでもない。文字通りの放置、なわけ。

病院がそういうところであると知っているアメリカ人なら、そういわれるのは予期できたのだろうが、彼女は急患だっただけに、そんなことは思いもよらなかった。
そのとき、夫が駐車場に車を置いて、病院に入ってきた。もちろん、夫も同じことを言われたのだけど、幸い運転免許証を入れていた財布にクレジットカード(それも幸いゴールドカード)が入っていたので、それを出したら、やっと診療を受け付けてくれたというのだ。
(ちなみに彼らは英語を完璧に話せる人たちで、言葉の問題による誤解などはなかったことは追記しておく)
アメリカに旅行する人は、アメリカの病院とはそういうところであることぐらいは知っておくべきだろう。忘れるべからず、クレジットカード。できればゴールドね。

それから、アメリカで心臓移植すると、なんで何千万円もかかるのか、という疑問の答えもここにある。

心臓移植をしなくては死んでしまう○○ちゃんは、果たしてアメリカに連れて行くべきなのだろうか?
戦後の洗脳教育のせいで、アメリカのものはなんでも舶来上等で世界一、高度先進医療はアメリカにしかないと思いこんでいる日本人が多いから成立している募金なのだけれど、医療関係者によると、アメリカの金持ちはアメリカでは医療を受けず、外国に行くケースが多いという。

そんな矢先にこのニュース。

「スノー米大統領報道官が癌にかかり、その治療費が支払いきれないため、任期中に辞任の意向を表明」
http://d.hatena.ne.jp/Yosyan/20070820

さらにさらにブラックである。
というか、ブッシュ陣営にあって映画の宣伝になってるかも。

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