ルンバの歴史


さて、またちょっと戻ってキューバ話題。
島の明るい男たちと半月を過ごしたあとで言うのもなんだけれど、その島を出た人々の作った一本のビデオがある。
といっても、またあれかよ、という感じのCIAがらみの悪意まるだしの政治ネタものじゃなくて。
音楽ネタ。題して「ルンバの歴史」。

これが意外にも、悪くないんである。
もちろん、亡命組の作ったDVDだから、現在のキューバについて肯定的に語ることはタブーだ。

アメリカはそういう意味では、表現の自由のない国だからね。
それどころか、アメリカ人が、ジャーナリストでもないのにキューバに行くこと自体が高額の罰金刑に処せられるような罪でもある。

ブッシュ陣営が、マイケル・ムーアのSICKOの公開を妨害するために、この法律を使ってフィルムの没収をしようとしたニュースも伝わっているのも道理というわけ。もちろん、ムーアは取材査証をちゃんととていたのだけどね。(まあ、映画ではまるで密航でもしたように描いているのがご愛敬だけど)

で。これは、そういう背景が存在するうえで作られたDVDというわけ。
すなわち、現在のキューバについて少しでも肯定的に語る自由は彼らにはないから、このDVDには、アダルベルト・アルバレスもNGラ・バンダもチャランガ・アバネラも(名前すら)出てこない。触れられもしない。
シルビオ・ロドリゲスは当然として、ブエナビスタ・ソシアル・クラブにすら言及しない。
フランク・エミリオもリチャード・エグエスもパンチョ・アマットもゴンサロ・ルバルカバも「存在していない」

ここで、少しキューバ音楽を知っている人なら、思うかもしれない。
「だったら、そんなDVDナンの価値があるの?」

いや、ところがあるのですよ。
大物が出ていない........いや、出られないからこそ、ある意味、一枚のDVDでキューバ音楽について広く取り上げた入門編に仕上がっているわけ。
考えてもごらんなさいよ。キューバの大物を一人入れちゃったら、そいつ一人でDVD一枚分ぐらい終わっちゃうよね。
(そういう意味で成功したのも、当時「売れてない人」ばっかり集めて低予算で作ったブエナビスタだったわけですが)

それと、大物というのは、「その人独自の天才的なスタイル」が濃ゆすぎて、「ジャンルの代表」としては適切とはいえないことがある。
超絶技巧が行きすぎて、なにがどうなってるのかわかんないなんてこともある。
そういう意味では、天才でも大スターでもない人たちに、スタンダードを演奏してもらう方が、その音楽ジャンルを知るには、初心者にはわかりやすいわけで。

なわけで、「ルンバの歴史」と銘打ちながら、このDVD、結果としてキューバ音楽の、えらくわかりやすい入門編になっているのだ。
ルンバに始まり、トローバ、チャングイ、ソン、ダンソン、ラテンジャズと、ひととおり押さえるところはちゃんと押さえている。
驚いたのは、トローバに関してもちゃんと語っていること。

ヌエバ・トローバに関してさえ、もう....そりゃあもうめちゃくちゃ奥歯に物の挟まったような表現でありながらも、(そしてもちろん、彼らにはシルビオやパブロやビセンテの名前を上げることはできないのだが)、しかし、「その後のラテンアメリカに重要な影響を与えた」とまで言っているのである。これは偉い。よく頑張った。感動した。(ここ、小泉口調で)

トロバドールを名乗っている二人など、ちょっと微妙なところもあるが、(てか、トローバ組はほとんどみんな革命派だから、よっぽど人材がいなかったんだろうとは思う)、それは許そう。

ついでに、これはアメリカ制作の特権で、キューバ革命以前の、つまりキューバとアメリカの蜜月時代にアメリカで演奏している当時のキューバの大スターの映像なども入っている。このベニー・モレやペレス=プラードの映像は、マニアは垂涎ものかも。

お約束で、DVDの最後の方で、「キューバに自由が回復されることを」なんてのたまうセリフもあるが、そう言っている彼ら自身が一番わかっているのだろう。
ルンバもトローバもソンもチャチャチャもダンソンもヌエバ・トローバもアフロキューバンジャズも、島のキューバ人が生み出したもので、ラテンジャズやサルサはアメリカ在住のプエルトリコ人や南米人が生み出したもの。
亡命キューバ人が亡命キューバ人として生み出した文化はなにもない。(セリア・クルスやグロリア・エステファンのように商業的に売れた人はいるけれどね)
その屈折が、せめて、音楽のジャンルについてきちんと解説したいという気持ちを生んだのであれば、それもそれで評価したい。
こいつら、ちゃんと保険に入っているのかなあ、自業自得とはいえ、無保険だったりしたら可哀想すぎるかも、とかちょっと心配もしたりして。
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