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ハバナに似た街

メキシコシティから一列三席のバスみたいな飛行機で空路1時間40分。
着いたカンペチェは、熱帯地方。まだ午前中なのに、いきなり暖かい空気と椰子の木が迎えてくれる。

「うわぁ、ハバナみたい」とはしゃぐキューバ人ども。
もちろん空港にはお迎えが来ていて、マイクロバスでホテルに直行する。

が。
その空港からホテルまでの風景までが、なぜかやたらにハバナに似ているんである。
まあ、同時期に建設されたカリブ海の町だからかもしれないんだけど。

バスが海岸沿いに走るマレコン通りに入ると、キューバ人たちのはしゃぎぶりはさらにパワーアップ。なんせ、通りの名前まで同じなら、景色まで笑っちゃうほど酷似なんである。
具体的に言うと、ホテル・リビエラからハバナ・ビエハに向かうあたりね。ないのは黒い旗ぐらい。(ってったって、ほとんどの人にはわからんと思うローカルネタだけど)

「これでモロ城塞があったら、完璧じゃん」とパーカスのケケ。
「城塞ならありますよ」と運ちゃん。
(ここで、おおっとどよめくキューバ人)

「そういえば、いまごろフィデルはなにをしてるんだろうねえ」とピアノのぺぺ。
「そりゃ、飯食ってんだよ」とギターのフェリペ。「ベネズエラのチャベス(大統領)と」
ふんふん。
「そいで、ブッシュに電話かけて、世界の新聞記者どもが飢え死にしないですむように、次はどんなおもろいネタを仕込むか、相談するんだ」
出たぁっ。

笑い転げているうちに、バスはホテルに。カンペチェはハバナに似ているが、実際はずっと小さいのだ。
ホテルのフロントに着くと、まだ午前中なので部屋は用意できていないとおねえさんに言われてしまう。

ここで日本人やメキシコ人ならあきらめて、荷物だけ預かってもらい、カフェテリアにでも行って時間を潰そうとするところだが、キューバ人は違う。
すかさず、フェリペ君が前に進み出て、フロントのお姉ちゃんになにやら甘い言葉をせつせつと囁きはじめるではないか。
すると、たった3分で突然お姉ちゃんにスイッチが入って、パソコンで鬼のように真剣に検索を始め、あっという間に空いている部屋を(それもアップグレードした部屋を)4つ用意してくれたものである。(実話)

「この人、いつもこんなんなの?」と空港に迎えに来てくれたフェス担当のおねえちゃん。
「そう」と私。
モンテレイ公演の時は、ホテルの朝食のメニューがいまいちだったのだが、彼がレストランのお姉ちゃんに甘く切々と囁くと、続々と追加料理が出てきたものだった。(実話)

「だから組んでるとか?」とフェスのおねえちゃん。
いや。でも、こいつが詐欺師にならずに音楽家になったというのは、世界のためにいいことだったとは思ってるよ。
ちなみにフェリペ君の座右の銘は「困難は打ち勝つために存在する(フィデル・カストロ)」だそうである。

部屋に入って一休みして、カンペチェの町をちと散歩。
この町もハバナと同じく、ユネスコの世界文化遺産に指定されている。ここは、大航海時代のスペイン人が、メキシコ湾岸で最初に要塞を築いた街なのだ。だから、最近になって修復されたコロニアルな町並みはこれまたハバナ旧市街にそっくりで、実に美しいのだった。しかも、カンペチェは周囲に、これまた別に世界文化遺産に指定されたマヤのエズナー遺跡がある。まだ知名度は低いが、観光地として脚光を浴びる要素自体はたくさんある。

遅めの昼食(もちろん海産物)を食べて体を休め、すばらしい日の入りを眺めてから、サウンドチェックに向かう。
会場は、最初予定されていた野外ではなくて劇場に変更になっていたが、ちゃんとスタインウェイのピアノのはいった素敵な劇場である。
というので、ぺぺ君はもうご機嫌。
ハバナに空気が似ているもんで、すでにキューバ組はハイテンション。
とりわけ、この日のフェリペ・バルデス君のギターはすばらしく、フェスのお姉ちゃんも、べつに彼が口先三寸物資調達の才能があるから組んでいるわけではないことは心から納得してくれたであろう。

もちろん、私もスイッチが入っていた。
アンコール2曲、オールスタンディングオベイションが、そのお返しである。

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