おすすめ 「免疫学者が語る パンデミックの『終わり』と、これからの世界」
一言で言うと、とてもわかりやすく、そしてきわめて有益な書籍だ。

まず、Covid-19こと新型コロナというものが、疫学的にどういうものか、重症化とはどういうことが起こっているのか、変異株とはどういうものでなぜ次々に発生してくるのか、一時期話題になった抗体カクテル療法とはどういうもので、コロナワクチンとはどのようなものなのか、後遺症にはどのようなものがあるのかといったことが、医学者からの視点で、ていねいに解説される。
言うまでもなく、著者の小野昌弘さんは最前線の免疫学者として、コロナウイルス感染症の研究をしていたひとなので、この内容は、ネットでざっと調べればわかるような「一般論レベル」の解説ではない。つまり、かなり専門的な話なのだが、それが素人にも非常にわかりやすく説明されているのは、母国語ではない言葉を用いて、英国で学生に高度な内容を講義するということを日頃からこなしておられる小野さんの面目躍如というところ。徹底的に論理的であるだけではなく、比喩やたとえが絶妙だからだろう。
本書では、「わたし」という主語を使うことで、さまざまなケースが論じられる。
そのことで、読者は、専門的で難解なマニュアルの箇条書きを読まされるのではなく、身近にそういった人がいる、いるかもしれない、あるいは自分もそうなるかもしれない、という、ある種の感情移入をもってさまざまなケースに引き込まれ、そのことで、理解を深めることができるようになっている。
また、膝を打ってしまったのは、過去に詳しく説明された事柄については、毎回と言っていいほど、非常に丁重に(→113ページ)という矢印で、適切なアナログ・リンクが示されていることだ。
内容が非常に高度であるだけに、門外漢には、たとえば中和抗体だのB細胞だのT細胞だのRNAポリメーラーゼだのと説明されても、(その説明自体は、とても丁重でわかりやすいのではあるけれど、それでも)一度読んだだけではよくわかっていなかったり、忘れてしまったり、そのときはなんとなくわかったつもりになっていても、じつはよくわかっていなかったりする。しかし、この矢印のおかげで、前に戻って、そこのところだけおさらいをすることができるので、T細胞といえば「はたらく細胞」のあのマッチョマンしか連想できなかったレベルの私ですら、かなり理解を深めることができた。はっきり言おう、これ便利です。
この部分だけでも、すごく賢くなれる(たぶん)ので、買う値打ちはありますよ。
そして、本書は、そういった医学的な解説だけではなく、社会的な意味でのコロナ・パンデミックの分析、また、今後の可能性も示唆している。それができるのは、小野さんがパンデミックの時期、まさに初期対応に失敗して多大な死者を出した英国にいて、その状況を実体験されていただけではなく、英国という国が、その惨禍を顧みて徹底的な分析と検証を行い、その膨大なデータを公開してきたからだ。
まさに、データ。
正確なデータの集積があるからこそ、コロナ禍が、いついかなる形でパンデミックと化し、どういった人たちを襲い、また、どういった被害をもたらしたかが、明確にわかる。
さらにインターネットのおかげで、膨大の数の論文にネット上ですぐにアクセスすることができる。
それらのデータを元にして、小野氏は、 ワクチンの仕組みや副反応、そのメカニズム、統計データからみるリスクも説明されたうえで、合理的な選択として(あくまでも個人の自由意志での選択として)ワクチン接種を推奨する。同様に、かつて日本で大手を振っていた「集団免疫」論や「ファクターX」説をあっさり粉砕し、その上で、社会的な意味での「パンデミックの解決」の具体的なレシピへと向かう。
では、どんな未来があり得るか。
小野氏は、現段階で推測できる可能性のパターンを示しつつ、明白に、コロナはなくならないし、ただの風邪になることもない、と予測する。しかし、それはけっして悲観論ではない。
2020年初頭の、新型コロナが、謎の肺炎として、重症化のメカニズムもわからず、したがって対症療法にも限界がある状況でバタバタと死人が出ていた時期と比べれば、現在は、重症化を防ぐ効果のあるワクチンが作られて接種が広がり、発症した場合の治療法も確立されてきている。
だからこそ、医療崩壊が起こりにくくなっているし、オミクロン株が「弱毒化」したように見える。
そういったかたちで、社会がコロナに対応していき、その被害を最小化していくことを「パンデミックを飼い慣らす」と小野氏は表現する。
具体的に「パンデミックを飼い慣らし」ていくためには、どのようにしたらいいか、そういったきわめて具体的な提言もなされている。
当たり前だが、そこでも重要なのは「情報公開」と「透明性」と、それを踏まえての「適切な公的資金の投入」だということだ。
それは、コロナに限らず、将来的にもまた起こりうるパンデミックへの対策でもある。
ここで、日本にいた日本人としては、この2年間、日本政府がなにをしてきたかを思えば、暗澹たる気持ちにならざるを得ない。
この科学者からの、いたって「ふつうでまとも」な提言を、いまの日本が受け止められる状況からほど遠いところが、実は一番、この書の怖いところかもしれない。

まず、Covid-19こと新型コロナというものが、疫学的にどういうものか、重症化とはどういうことが起こっているのか、変異株とはどういうものでなぜ次々に発生してくるのか、一時期話題になった抗体カクテル療法とはどういうもので、コロナワクチンとはどのようなものなのか、後遺症にはどのようなものがあるのかといったことが、医学者からの視点で、ていねいに解説される。
言うまでもなく、著者の小野昌弘さんは最前線の免疫学者として、コロナウイルス感染症の研究をしていたひとなので、この内容は、ネットでざっと調べればわかるような「一般論レベル」の解説ではない。つまり、かなり専門的な話なのだが、それが素人にも非常にわかりやすく説明されているのは、母国語ではない言葉を用いて、英国で学生に高度な内容を講義するということを日頃からこなしておられる小野さんの面目躍如というところ。徹底的に論理的であるだけではなく、比喩やたとえが絶妙だからだろう。
本書では、「わたし」という主語を使うことで、さまざまなケースが論じられる。
そのことで、読者は、専門的で難解なマニュアルの箇条書きを読まされるのではなく、身近にそういった人がいる、いるかもしれない、あるいは自分もそうなるかもしれない、という、ある種の感情移入をもってさまざまなケースに引き込まれ、そのことで、理解を深めることができるようになっている。
また、膝を打ってしまったのは、過去に詳しく説明された事柄については、毎回と言っていいほど、非常に丁重に(→113ページ)という矢印で、適切なアナログ・リンクが示されていることだ。
内容が非常に高度であるだけに、門外漢には、たとえば中和抗体だのB細胞だのT細胞だのRNAポリメーラーゼだのと説明されても、(その説明自体は、とても丁重でわかりやすいのではあるけれど、それでも)一度読んだだけではよくわかっていなかったり、忘れてしまったり、そのときはなんとなくわかったつもりになっていても、じつはよくわかっていなかったりする。しかし、この矢印のおかげで、前に戻って、そこのところだけおさらいをすることができるので、T細胞といえば「はたらく細胞」のあのマッチョマンしか連想できなかったレベルの私ですら、かなり理解を深めることができた。はっきり言おう、これ便利です。
この部分だけでも、すごく賢くなれる(たぶん)ので、買う値打ちはありますよ。
そして、本書は、そういった医学的な解説だけではなく、社会的な意味でのコロナ・パンデミックの分析、また、今後の可能性も示唆している。それができるのは、小野さんがパンデミックの時期、まさに初期対応に失敗して多大な死者を出した英国にいて、その状況を実体験されていただけではなく、英国という国が、その惨禍を顧みて徹底的な分析と検証を行い、その膨大なデータを公開してきたからだ。
まさに、データ。
正確なデータの集積があるからこそ、コロナ禍が、いついかなる形でパンデミックと化し、どういった人たちを襲い、また、どういった被害をもたらしたかが、明確にわかる。
さらにインターネットのおかげで、膨大の数の論文にネット上ですぐにアクセスすることができる。
それらのデータを元にして、小野氏は、 ワクチンの仕組みや副反応、そのメカニズム、統計データからみるリスクも説明されたうえで、合理的な選択として(あくまでも個人の自由意志での選択として)ワクチン接種を推奨する。同様に、かつて日本で大手を振っていた「集団免疫」論や「ファクターX」説をあっさり粉砕し、その上で、社会的な意味での「パンデミックの解決」の具体的なレシピへと向かう。
では、どんな未来があり得るか。
小野氏は、現段階で推測できる可能性のパターンを示しつつ、明白に、コロナはなくならないし、ただの風邪になることもない、と予測する。しかし、それはけっして悲観論ではない。
2020年初頭の、新型コロナが、謎の肺炎として、重症化のメカニズムもわからず、したがって対症療法にも限界がある状況でバタバタと死人が出ていた時期と比べれば、現在は、重症化を防ぐ効果のあるワクチンが作られて接種が広がり、発症した場合の治療法も確立されてきている。
だからこそ、医療崩壊が起こりにくくなっているし、オミクロン株が「弱毒化」したように見える。
そういったかたちで、社会がコロナに対応していき、その被害を最小化していくことを「パンデミックを飼い慣らす」と小野氏は表現する。
具体的に「パンデミックを飼い慣らし」ていくためには、どのようにしたらいいか、そういったきわめて具体的な提言もなされている。
当たり前だが、そこでも重要なのは「情報公開」と「透明性」と、それを踏まえての「適切な公的資金の投入」だということだ。
それは、コロナに限らず、将来的にもまた起こりうるパンデミックへの対策でもある。
ここで、日本にいた日本人としては、この2年間、日本政府がなにをしてきたかを思えば、暗澹たる気持ちにならざるを得ない。
この科学者からの、いたって「ふつうでまとも」な提言を、いまの日本が受け止められる状況からほど遠いところが、実は一番、この書の怖いところかもしれない。