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昨日、ボリビアでクーデターがありました

Evo Morales
 昨日、ボリビアでクーデターが起きた。そして、先住民出身の大統領エボ・モラレスが亡命した。

 いやあ、革命とかクーデターのお盛んなラテンアメリカらしいですねえ…. (とか言ってる場合ではありませんよね)
 クーデターではないと主張しておられる向きもありますが、官邸で軍と警察に辞任を強く要求されて、その後、大統領が亡命を余儀なくされているんですから、クーデターでしょうよ。辞任を要求されたその瞬間に、たとえ銃を突きつけられていなかったとしても、自分やそれ以外の多くの人間の命に真剣に関わる問題だと思うから、辞任し、亡命するからで。

 もっとも、背景は、シンプルではない。
 エボは、2006年、先住民としてはじめて大統領になり、先住民の権利向上に尽力した。先住民言語のアイマラ語を公用語化し、国名もボリビア共和国から、ボリビア多民族国家に変更した。劣悪な状態だった貧困層の保健衛生を劇的に向上させ、教育水準を上げ、ボリビアの地下に眠る天然ガスと石油を国有化し、農地改革を行い、大農場主から接収した土地の所有権を先住民に引き渡した。経済政策も成功させ、世界でも最貧国のひとつとされ、しかも極端なまでの格差社会だったボリビアに、曲がりなりにも中間層を生み出した。
 そして、そういう大統領は、当然ながら、既得権益層からは、ポピュリストとレッテルを貼られ、嫌われ、叩かれる。

 しかも、ボリビアは元々、複雑な国である。50年代から2000年代初頭まで、クーデターが頻発し、猫の目のように政権が変わることでも知られた。左派は分裂し、翻弄され、チェ・ゲバラが非業の死を遂げたのが、まさにボリビアであったことは、知られているが、これとて、単に CIA の陰謀が……というような話ではない。当時、ボリビアの共産党も農民も、社会主義革命を目指すゲバラを「敵」と見做し、攻撃する側に加わったのである。  
 貧困率が60%を超える国であったのに、だ。それがゲバラの誤算だった。
 そういう、複雑極まりない背景があることも知っておかなければならない。

 このあたりの、ボリビアの歴史的背景は日本ではほとんど知られていないし、参考資料も少ないのだが、興味のある方は、なんと、海堂尊氏の小説「ゲバラ漂流」に詳しいので、けっこうおすすめできる。ゲバラ漂流

 これはゲバラの生涯とキューバ革命を描いている大作で、現在で4巻まで出ているのに、まだキューバ革命がぜんぜん始まらない(笑)という超大作なのだが、その2巻目が、ちょうどゲバラ青年が、1952年のボリビア革命に巻き込まれるところから始まっていて、ボリビア政界の魑魅魍魎っぷりがじっくりと描かれている。1巻(いわゆる「モーターサイクル・ダイアリー時代」が描かれている)を未読で、ここから初めても面白いので、お薦め。

(このシリーズの良いところは、歴史書で読むと死ぬほど退屈で、しかも頭がこんがらがるラテンアメリカ現代史を、かなりわかりやすく、しかも小説仕立てで面白く読めるところだ。さすがに日本で一番退屈とされる厚生労働省の会議を、面白く読める長編小説に仕立て上げた作家だけのことはある。ただし、小説なので、一部、真っ赤な「作り話」もあるので、そこだけは注意されたいが、かなりおすすめできるラテンアメリカ近代史入門書である)

 話戻るが、まあ、そういう歴史的背景のある国で、エボ・モラレスが圧倒的な支持を得て当選し、数々の社会改革を成し遂げてきたことは、本当に、特筆に値するのだが、当然ながら、就任直後から反対も根強かった。ブッシュなどは、彼を麻薬の売人呼ばわりしたものである。

 さらに言うと、そこでエボは3選した。任期15年。そして4選を狙っての大統領選で躓いた。

 ボリビアの憲法では4選を禁じている。そもそも3選も禁じていたのだが、これは憲法を改正したのだ。これは国民投票の60%以上の賛成で可決された。
 そして、4選目を迎えたわけだが、ここで問題がある。この4選目を可能にするための国民投票は、否決された。つまり、国民はエボの第4期を望まなかった。4選となれば20年。長期独裁だと叩く野党側の主張の方が、国民に受け入れられたことになる。
 にもかかわらず、エボは大統領選を強行し、自ら立候補した。
 その結果、選挙不正があったという話になり、国内で反政府デモが起こる騒ぎとなった。
 この状況に、エボは再選挙の実施を申し出たが、軍と警察が大統領に辞任を要求した、という流れだ。

 そういう意味では、今回の流れは、そう簡単ではない。4選を可能にするための国民投票が否決になった段階で、彼は別の方法を採るべきであった、というのが正論だ。
 後継者をうまく育てることができなかったのが失敗という批判もあるだろう。

 しかし、隣の国のエクアドルで、ラファエル・コレア大統領は、同じく、2度の再選のあと、後継者として育ててきた(つもりだった)副大統領のレニン・モレノに見事なまでに裏切られた。モレノはコレアの全面的支援を受けて当選したにもかかわらず、その後、完全に掌を返して、財界と手を握って新自由主義へと180度の舵を切り、コレアのやってきた改革を次々に潰し、それに反発して反対派をまとめようとしたコレアやその側近をでっち上げの汚職の罪で逮捕しようと試み、亡命に追い込んだ。いわゆる「国の乗っ取り」だ。これがほんの2年前のことである

(ちなみに、先月、エクアドルの首都機能が移転させられるほどに激化した先住民デモは、このモレノ大統領の押し進める新自由主義政策の結果、悲惨なことになった先住民の人たちの抵抗運動である)

 エボが、この事件に無関心でいられるわけがないのは当然だろう。うかつに後継者を決められなかったことも理解できる。
 他にもっとなにかいい方法があっただろうと、口で言うのは簡単だが、実際には難しかっただろう。

 さらに、ここに、日本でも人気の高い、かのウルグアイの「世界一貧乏な」ぺぺ・I ムヒカ元大統領の名言が重なる。
左派は理想で分裂するが、右派は利権で団結する
 
 ああ、真理である。(日本もそうだよね)
 右派の政治家は、相当のことをやらかしていても、利権をばらまける限り、その支持者は離れないし、左派やリベラルの政治家は些細なスキャンダルや疑いで、己の支持者から辞職勧告を突きつけられがちってことだ。

 ボリビアでもこれが起こった。従来、エボを支持していた人たちが、長期独裁だなんだという極右のデモに扇動されて大統領を叩く事態になったわけ。
 それが、警察や軍に大義名分を与えたと。

 まあ、それに加えて、このロイターの記事の「暮らしにゆとりが出るほど、国民は政治指導者の不正に寛大でなくなることがあるのだ。そもそも指導者が良い変化をもたらすのを助けたのであっても」という指摘も、今回の場合、なかなかいいところを突いているといえる。
 
 そのエボが亡命申請をし、瞬殺で受理したのがメキシコのロペス=オブラドール大統領。米州機構に緊急総会を呼びかける と共に、速攻でメキシコ外務大臣自身が護衛を引き連れて、エボの保護にボリビアに向かい、飛行機に乗せて、メキシコに連れ帰った。

その間も、ずっとツイートしてたというのが、とっても今っぽいが、そもそも、30年代メキシコはトロツキーを受け入れ、スペイン市民戦争時は大量のスペイン共和国支持者を受け入れ、その後はアルゼンチンやチリや中米の軍事政権亡命者を受け入れてきたという伝統がある。日本からは佐野碩さんもお世話になっていますね。

 メキシコでは、#BienvenidoEvo (ようこそエボ)というハッシュタグで、お祭り騒ぎの大盛り上がり、というのが現況。ワールドカップ決勝かよ。

 一方で、米ホワイトハウスはというと、速攻でボリビアの政変に祝意を表明し、「ベネズエラやキューバにも波及するように」と表明した。(エクアドルやチリにも、と言っていないところにご注目。これで、この件の意味がよくわかりますね)
 https://www.whitehouse.gov/briefings-statements/statement-president-donald-j-trump-regarding-resignation-bolivian-president-evo-morales/

 ボリビアでは、今後、まともな選挙が行われるのか。野党統一候補となっていたメサが政権に就いたとして、(選挙では、彼は、天然ガスや石油の民営化は行わないとは言っていましたが)、その後の政策がどうなるのか。
 ちなみに、ボリビアの天然ガスは南米2位、リチウムの埋蔵量は世界一というところも注目ポイントだ。

 これから注視してきたいところである。

エボ・モラエスがメキシコに到着したところのニュース映像

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