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集団的自衛権について:誤解も多いようでございます

 さて、集団的自衛権そのものについても、かなり誤解が蔓延しているようなので、少し書いておくことにいたします。
 そもそも、読んで字のごとく、集団的自衛権は「自衛」のためのものです。

 それでもって、安倍首相が言ったように、

 例えば、海外で突然紛争が発生し、そこから逃げようとする日本人を、同盟国であり能力を有する米国が救助し輸送しているとき、日本近海において攻撃を受けるかもしれない。我が国自身への攻撃ではありません。しかし、それでも日本人の命を守るため、自衛隊が米国の船を守る。それをできるようにするのが今回の閣議決定です。

 というのは、根本的に間違っています。というのも、「海外で突然紛争が発生し、そこから逃げようとする日本人を同盟国であり、能力を有する米国が救助のために輸送」することはありえないです。これは日本に限らず、どの米国の同盟国であっても、米国が、軍艦や軍用機が民間人を輸送することはありません。

 実を言うと、私は、80年代終わりの『地球の歩き方・メキシコ中米編』で、グアテマラで軍用機に乗った体験を書いた、「軍用機ヒッチハイク女」伝説の主なのですが(大爆)、これは、中米の堕落しきった政権のもと、腐敗した軍が小遣い稼ぎのためにやったことです。
 とはいえ、この軍用機に乗った経験が楽しかったかというとそんなことはございません。
 軍の輸送機に乗っている間にですね、「ただいま、反政府ゲリラ占領地域上空を通過中、敵は対空ミサイルを調達しているので、各自注意」などというアナウンスが流れるんですね。

 をい、ちょっと待ってくれよ。撃墜されるかもしれないから各自注意って、どーせーっちゅうんだ?!(と、こちらは「アッチョンブリケ」状態)
 そうなのです。軍艦とか戦闘機って、撃沈・撃墜対象ですから、いっちゃん危ないのです。

 そういえば、そのころの「地球の歩き方・中米編」には、「エルサルバドルで旅行をするときは、軍の基地や軍人らしき人には近づかないように、なぜなら、そこが一番、ゲリラの攻撃対象になって、巻き添えをくう可能性があるから」なんていう記述があったもんです。当時の「地球の歩き方」はサバイバル感がありましたね。(って、書いたのは私ですが)

 軍用機に乗った体験と言えば、アルゼンチンを巡業したときにも、ブエノスアイレスから南部に飛ぶのに軍用機に乗ったことがありましたね。これは、軍の「アルバイト」で民営航空より、だいぶ格安の値段で乗っけてくれるとかいうので、現地のマネージャーが契約しちまってたのでした。
 当時、アルゼンチンは別に戦争をしていないので、そういう意味での危険はなかったのですが、軍がそういうセコいアルバイトをやること自体ですね、さすが大騒ぎをしてフォークランド戦争をやったくせに、遠くから軍を派遣してくるイギリスにあっさり負けるだけのことはあるわ、とゆー印象を持ったことは否定しません。

 まあ、もちろん、客船が沈没事故に遭って、海に浮かんで救助を待っている遭難者がいるときに、たまたま軍艦が通りかかったら、生存者救助をする、というようなことはあるでしょうが、それは同盟国であるかどうかという話ではなく、人道的な話であります。

 でもってですね、そういう意味で、戦闘状態にあるときに、軍の航空機や輸送船が民間人を乗せることはありません。これは、乗せた方がかえって危険だからというのもありますし、乗せた民間人が敵側の要員だったりしたら、これまた大変なことになるからです。

 つーか、米国人ですら
 http://travel.state.gov/content/passports/english/emergencies/crisis-support.html
 見ればわかるように、
「米国軍ヘリや米国政府の輸送機が護衛付きで救出してくれることを期待するのは、ハリウッドのシナリオに影響されすぎで、現実的とはいえません」
「米国政府支援による米国国民の当該国からの離脱は、高価なものになります」
「我々は米国国民の支援を最優先します。米国市民でない友人や親類を米国政府のチャーター機や民間以外の輸送手段に乗せられるとは期待しないでください」
 と書いてあります。

 ですので、
 
「1.外国で戦争が勃発!」→「2.巻き込まれた日本人民間人を米軍が救出!」→「3.でもって、米艦でその日本人を輸送!」→「4.その米艦が攻撃されるかもしれないんで、自衛隊出動!!!」

 なんつー、お花畑なことは考えない方がよろしいです。「2」がそもそもありえませんので。

....という点は、すでにあちこちで指摘されていますが、それともうひとつ、集団的自衛権について、安倍総理の、もうひとつの、さらに、お花畑な点を指摘させていただきます。

 つまり、1986年に、国際司法裁判所は、集団的自衛権に関して、
 
1.武力攻撃の犠牲国が自ら犠牲となった旨を宣言せず、
2.なおかつ集団的自衛権を行使する国に対して犠牲国が援助要請をしていない場合に、
3.集団的自衛権行使を容認する規則は、慣習国際法上存在しない

という判決を出しています。
つまり、「正規軍による越境軍事攻撃、もしくは、それに匹敵するほどの武力行為を行う武装集団等の派遣・援助等」があり、そのうえで、それに基づいて、「その犠牲国が援助要請」しない限り、集団的自衛権の行使が認められられないということです。

これってね、けっこうハードル高いです。
「米国が中東に戦争に行くから、日本も派兵」というのは、集団的自衛権の枠組みでは、国際法上「できない」のです。もしやっちゃった場合は国際法違反です。

また逆に、国際司法裁判所では、

「正規軍による単なる越境事件、正規軍による軍事攻撃に匹敵しない程度の私人の武力行為の黙認等」については、「被害国による均衡性のとれた対抗措置、集団的対応は不可、武力を伴う対抗措置が可能かは判断回避」

と裁定していますので、たとえば、中国のある団体などが尖閣に軍事攻撃をしちゃったことが原因で、中国・日本間が緊迫したとしても、米国が無条件に日本を支援してくれるかどうかは、そーとー疑問です。尖閣に安保は適用されるとオバマ大統領は言ったそうですけど、それはリップサービスというやつです。実際に米国が軍を派遣するためには、議会の承認が要りますから、議会で否決されたらそれで終わりですので、ご注意ください。

ただ、いずれにしても、この機会に、憲法とは何か、自衛とは何か、戦争に参加するかもしれないとはどういうことか、政治家ってこういうことができちゃうんだ、ということを、多くの若い人が「身近なこと」として考えた、という点では、むしろ、私は前向きに捉えたいと思っています。
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