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日本語の使い方に騙されてはいけません:検察に指示するのがタブーという勘違い

 郷原弁護士が指揮権について書かれたブログ記事が、昨日のBLOGOSで「もっとも支持された記事」ランキング1位だったそうだ。
 郷原氏がやっとブログを! という歓迎の意もあるのかもしれないが、それにしてもグッドタイミングの参入であります。

 しかし、素人のあたくしが僭越ながら、ひとつだけツッコミを。

 郷原弁護士が書かれているように、マスコミがタブー呼ばわりしている「指揮権発動」とは、造船疑獄事件のように(その実態は、郷原氏指摘のように誤解であったとしても)「特捜が、起訴のために全力で動いている事件を、大臣が政治的圧力として、止める」話です。
 まさに、会社が総力を挙げて進めている大プロジェクトを、鶴の一声で止めるような話です。
 たとえば、社運を賭けてのニュータウン建設とか新製品開発とか。
 それならば、確かに、軽率に決めて良いことではない。熟考に熟考を重ねる必要があります。
(しかしながら、だとしても、それがタブーというのは、文字通りの思考停止で、おかしな話ですが)

 しかしまあ、それはそれとしまして、今回の件は、それとは真逆です。
 検察が身内の犯罪をあえて積極的に捜査立件せずに、過小に扱い、真実を揉み消そうとしている場合に、法相が指揮指導するのは、ある意味、当たり前の話で、それをタブー視するのは、どう考えてもおかしい。

 しかも、指揮「権」「発動」なんていうから、まるで「エヴァ降臨」みたいな、なんかもうとんでもなく凄いことであるかのような印象があるけれど、そもそも検察庁法第14条には、「発動」なんて言葉は一言もない。単に、「法務大臣は、第四条及び第六条に規定する検察官の事務に関し、検察官を一般に指揮監督することができる。但し、個々の事件の取調又は処分については、検事総長のみを指揮することができる。」とあるだけ。

 で、実際に、この「指揮監督」がそんなにタブーかといえば、ぜんぜんそうではなくて

 大阪地検をめぐる不祥事のとき、当時の柳田稔法務大臣は、ちゃんと検察庁法の指揮権に基づいて、

  1. 証拠改ざん事件が新聞報道された2010年9月21日に、当時の大林検事総長に対して「正義を見せてほしい」と指示。

  2. 前特捜部⻑ら2⼈が起訴された10⽉21⽇には⼤林総⻑を呼び「検証をしっかりやってほしい」と指示。

  3. その後、法務省刑事局を通じて、最⾼検による事件の検証に第三者の意⾒を聴くことを指示。

  4. 大阪地検の事件について、記者会見して説明することを最高検に指示。

  5. 「検察の在り方検討会議」の設置を指示。

なさっているのです。

これこそが、検察庁法第14条に基づいている「指示」。

そして、江田五月法相も、2011年4月8日に、検察の取り調べの「全面可視化」の試行などを書面で指示なさっているのです。

そういう意味では、小川法相が「田代虚偽報告書事件の捜査、弁護士の自分から見ても、不起訴はあり得ないんだから、もっと真剣にやりなさい」と指示するのは、タブー視されるような指揮権の発動なんてものでもなんでもないのだ。

そういう意味では、きわめて真っ当なことをしただけなのに、「指揮権」という強い言葉を使ってしまったがために、過剰反応したマスコミが騒いでいるだけの話ともいえる。

では、なぜ、小川法相は「捜査途上」なのに、そう思ったか。
ここでバラしてしまいましょう。

検察は、5月28日に、小川大臣に報告を上げています。

はい。なんで八木がそれを知っているのかは、情報源秘匿のために言えませんが、確かです。いずれ、明らかになるでしょう。

だから、その報告を見て、トンデモねえと思った小川大臣が、指揮を考えたんじゃないですかね。
朝日は、小川大臣が官邸に行ったのは、5月11日だと退任会見で語ったかのように書いていますが、昨日のエントリで収録したとおり、小川元大臣が言ったのは「5月下旬」。

この5月11日っては、首相動静から検索したんでしょうが、5月11日が「5月下旬」でないことは、子供でもわかりますからね。

まあ、もちろん、ゴールデンウィーク中に流出した、あの報告書を見て、検察官・裁判官・弁護士の法曹三者のすべてを経験している大臣として、
「客観的資料を見れば分かることだが、捜査報告書の中身、捜査状況の録音を詳細に見てみれば、記憶違いではないと、誰しもが思うんじゃないかと思う。」

と判断し、すみやかに官邸に相談された可能性もあると思うのですが、しかし、その場合、たとえ野田首相が、その時点で時期尚早と留めたとしても、5月28日に検察から上がってきた報告を見て、そんな小川大臣がどうするか。

さらに、29日に「どう具体的に対処するのか文書で回答して頂きたい」と書かれた国民会議のアピールを突きつけられて、しかも、口答で「あえてなにもしないなら、『なにもしない』と文書で回答されるがよろしい。将来、小学校の社会の教科書に名前が残るほどの汚点を残しますよ」とまで言われ、小川大臣がどうするか。

.......見えてきましたね。
だからこその口封じ内閣改造だったのかも、と。

さあ、となれば、みなさま、滝新大臣に期待しようではありませんか。

いくら野田首相でも、立て続けの法相更迭なんて見え見えのことはできないでしょうし、滝大臣におかれましては、歴史に悪名を残すか、名法相として名を留められるかの瀬戸際におられるかと思います。

テーマ : 政治・経済・時事問題
ジャンル : 政治・経済

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