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次はキューバ話題

パンチョ・アマート(フランシスコ・アマート)のコンサートが近づいております。個人的にはパンチョ・アマートというよりは、パンチョ・アマットというほうが発音が近いと思うのだけど、まあ、そういう名前で宣伝されていますので、ここは、アマートということにしておきましょうね。

(ちなみに、チラシには、フランシスコ・パンチョ・アマートと書いてありますが、これもちょっとね。パンチョというのはフランシスコのあだ名。つまりフランシスコ(パンチョ)・アマートという方が正確。)

パンチョは、70年代に結成されたキューバの学生バンド、マングアレのリーダーでありました。このマングアレ、じつは結成当時はなんとフォルクローレのバンドだったのですね。
といっても、キューバの民謡という意味でのフォルクローレではなくて、南米のいわゆるフォルクローレです。まあ、その当時、それだけ南米のフォルクローレが世界的に流行っていたということです。
ちょうど、時代背景としては、チリにアジェンデ政権も成立していましたし。要するに、現在とは全く別の意味で、「南米が熱かった」わけです。

で、マングアレは、アジェンデ政権とキューバの友好関係のもと、チリに音楽留学して、なんと、インティ・イリマニに弟子入りするわけです。
インティ・イリマニといえば、かのビクトル・ハラやエルネスト・カブールの薫陶を受けたチリのフォルクローレ・バンドですね。
ここで、リーダーのパンチョはチャランゴを弾いていた、と。

その後、マングアレは、南米のフォルクローレから、キューバのフォルクローレ方向へと進路を変え、パンチョもチャランゴからトレスへと楽器を持ち替え、キューバ最高のトレス奏者としての名声を得るまでになるのです。
ただ、この「キューバ最高のトレス奏者」という評価について。
ただ、早弾きができるとかそういうことだけではないのです。

それまで弦楽器とはいえ、決まったリズムパターンで演奏をするという使われ方しかしていなかったトレスに、柔軟なソロ奏法を取り入れ、それをまた、高度にやった。
パンチョの功績はこれに尽きます。彼はトレスの奏法に革命を起こしたわけ。

で、これは、おそらく南米で学んだチャランゴ(エルネスト・カブールがチャランゴを伴奏楽器からソロ楽器へと進化させ、それをさらに受けついたのがインティ・イリマニであったということを含め)と関係がないわけではないでしょうね。

マングアレ解散後、パンチョは、アダルベルト・アルバレスのバンドに入ります。

キューバのソンはというと、80年代、いったん沈滞期に入っていました。ソンにサルサを取り入れて、頑張っていたロス・バンバンなど、もちろんいいグループは色々あったわけですが、全体としてはキューバの中で、やや落ち込んでいたのですね。
その中から、ふたたび、ソンの黄金期をつくった流れの中の中心にいたのが、この、アダルベルト・アルバレス。
なんたって、このアダルベルトのデビュー時にプロデュースしていたのが、シルビオ・ロドリゲスやパブロ・ミラネスのプロデューサーであったフランク・フェルナンデス御大なのです。

サンティアゴ・デ・クーバの強烈な揺れのあるノリに、素晴らしいメロディ。さらに洗練された歌詞や編曲。

このアダルベルトのバンドに、さらに、超絶技巧の天才トレス奏者としてのパンチョと黄金の声のロヒータが加わった90年代の「アダルベルト・アルバレス・イ・ス・ソン」は、そりゃもう天下無敵って感じでありました。
当時、あのバンドと競演したり、一緒にステージに立てた私は幸せもんであります。
(で、楽屋で、パンチョと八木は「アルフォンシーナと海」を一緒に歌ったりしていた....大爆)

そして、やがてパンチョはそこからも独立して、自分のバンドを構えます。まあ、これも自然の成り行きというものでしょう。
ただ、パンチョの音楽の豊かさは、ただのトレス早弾きつきで、キューバ音楽のスタンダードを演奏できる、みたいなもんではないのは、上記でもおわかりでしょう。
単に、キューバ音楽ファン相手だけではもったいない。

いや、もちろん、キューバ音楽好きな方々がん逃すべきではないライブではありますが、ジャズ系の方も、もちろんフォルクローレ系、「ヌエバ・カンシオン系」の人にも絶対おすすめのライブです。
よみうりホール公演(7/1)はまだ席に余裕があるみたいです。

このあとには、エグベルト・ジスモンチのライブも控えているし、ちょい嬉しい悲鳴。
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ラテンアメリカと日本を拠点に活動する音楽家・作家 八木啓代のBlog
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